小説ヒロイン:野々宮ありさ

 それは土曜日の正午過ぎのことであった。
 医者にとって土曜日は午前中のみの診療なので自然と気分も軽くなる。
 社井医師もその日の診察が終わり看護師を帰した後、患者のデータ整理を行なっていた。
 データ整理もだいたい片付き帰ろうとしたとき、20才ぐらいの若い女性が青ざめた顔で飛び込んできた。

「先生ぇ……助けてください……」
「どうしたんだね?」

 社井医師は優しく尋ねた。

「あのぅ……実は蜂に刺されたんです」
「えっ、蜂に刺されたって!どんな蜂だった!?」
「え~と……黄色くてシマシマの模様がありました……」
「他に特徴はなかったかい?」
「割りと体が細くて足が長かったと思います」
「ふうむ、それならたぶんアシナガバチだと思うけど、どちらにしても直ぐに治療しよう!」
「は、はい……」
「ところでどこを刺されたの?」
「それがぁ……」
「どこだね?」
「あのぅ……ここなんです……」

 ありさの顔が真っ赤になっている。
 ありさが恥かしそうに指し示したところは股間であった。
 患部が意外な箇所だったことに社井医師は驚きを隠し切れなかった。

「でも、どうしてそんな複雑なところを刺されたんだい?」
「そのときベランダに干した洗濯物を入れていたんです。いつもなら取り込んだばかりの下着を着けることはないんですけど、今日はたまたま取り込んだばかりのショーツを穿きたかったもので、洗濯物を取り込んだあと直ぐに穿いたんです。すると急にアソコがズキンッ!と痛みが走って……。干している間にショーツに蜂が入ったみたいなんです。その後だんだん痛みがひどくなってきて……」
「うん、よく分かった。とにかく直ぐにパンツを脱ぎなさい」
「やっぱり脱がなきゃダメですか」
「そりゃそうだよ。脱がないと治療できないじゃないか」

 社井医師の表情は真剣そのものであった。

 ありさがその日着用していたものは、薄いピンク色のショーツであった。
 一刻を争うため、ありさは恥ずかしがる暇もなく、あわただしくスカートとショーツを脱ぎ脱衣かごに放り込んだ。

 下半身裸になったありさはすぐさま診察ベッドで仰向けに寝た。
 わずかばかりの黒い繁みの奥に秘めた縦線が丸見えになっている。
 社井医師はありさが指し示した周辺をつぶさに調べた。
 ところが不思議なことに刺された痕が見つからない。
 もしかしたら患部は繁みの中かもしれない。

「どこを刺されたの?」
「言うのが恥ずかしいんですけど……クリ……クリトリスを刺されたんです……」
「な、何とっ!陰核を刺されたって!?ゴホン!でも見たところ君の陰核亀頭は皮が被さっているようなんだけど……皮の上からチクリとやられたと言うわけだね?」
「はい……まさかこんなところを刺されるなんて夢にも思いませんでした……あぁ、恥ずかしい……」
「うん、分かった。直ぐに処置しよう」

 社井医師は陰核包皮を指で剥きあげ、クリトリスを完全に露出させてしまった。
 キラキラとまるでピンク色の真珠のように輝いている。

「ふうむ……刺された痕跡は無いんだけどなあ……」

 少し触られただけでも感じてしまう箇所なのに、検査が目的とは言え敏感なところを広げられたありさはピクピクと反応を繰り返した。

(スリスリスリ……スリスリスリ……)
 
「妙だねえ……」
「あぁん……」

 かなり感じてきたようで割れ目からはじっとりと半透明の液体が滲み出している。
 触られて感じるからつい腰をもじもじと動かしてしまう。

「じっとしててね」
「あ……はい……」

 社井医師は真剣な表情でクリトリスを観察している。
 ありさは恥ずかしくなって思わず腰を左右によじってしまう。

「ふうむ……陰核亀頭にも刺された形跡がないなあ。ふうむ、刺された所がいまいち特定できないけど解毒用の皮下注射を打っておくよ。それとステロイド軟膏を塗りこんでおけばもう大丈夫だよ」
「はい……ありがとうございます……」
「陰部に打つのでちょっと痛いけど我慢してね」
「は、はい……」

 社井医師は注射器をありさのふくよかな大陰唇にズブリと突き立てた。

「い、いたっ!」

 かなり痛かったのだろう、ありさは顔をしかめてじっと痛みに耐えている様子だった。
 わずか数秒のことなのだが、ありさにとってはきっと長く感じられたことだろう。
 まもなく針が抜かれ、乳白色でゼリー状の軟膏がクリトリスとその周辺に塗り込められた。

「あぁんっ、あっ、先生、そこは……ああっ……やんっ……」
「どうしたんだね?まだ痛むのかい?」
「いいえ……そうじゃないんですけど……」

 まさか感じるとも言えず、ありさは言葉を濁した。
 クリトリスに軟膏が塗られた後、小さなガーゼがあてがわれ、その上からテープが「×」の字型に貼られた。
 それはいささか珍奇で滑稽な光景であったが、社井医師は笑うわけにはいかずこらえながら治療を続けた。

「はい、終ったよ。今、リンデロンという軟膏を塗っておいからね。当分の間1日に4回は塗るように。でも患部がデリケートな場所なので妙な感じがしたらすぐに来てね。それから調剤薬局で飲み薬をもらって帰ってね。1日3回毎食後に飲むように。じゃあ1週間後にもう一度来てください」
「はい、先生、わかりました。ありがとうございました」

◇◇◇◇◇

 治療を終えて社井医院の門を出たありさはペロリと舌を出した。

「やったぁ~~~!ついにやったぁ~!あぁん、すごく気持ちよかったぁ~~~」

 実はありさが訴えた『蜂に刺された』というハチ刺傷事件は真っ赤な嘘であった。
 ありさがインフルエンザ予防や風邪の治療等で社井医院に何度か通っているうちに彼に惹かれ、つい思いが高じて彼女が打って出た大芝居だったのだ。

「嬉しいな~♪もう1回社井先生にアソコを触ってもらえるもんね~♪もしかしたら次はもっとすごいことになったりして~♪注射針じゃなくてもっとぶっといお肉の注射を打たれたりして!きゃぁぁぁぁぁ~~~~~!やぁ~~~~~~ん!」

 ありさは胸を躍らせて帰って行った。

◇◇◇◇◇

 一方、社井医師は……

「全くしょうがない子だなあ。蜂に刺されたなんてどうしてあんな嘘をついたんだろう?打った注射?ははははは~あれはね、単なる栄養剤だよ。塗ったのはふつうに市販されている軟膏だよ。え?飲み薬?あれはごくふつうの胃薬だよ。ぜ~んぶ副作用心配なし!それにしてもなかなかチャーミングな子だったな~。アソコの感度もなかなか……ゴホン!さあ、明日は女子のサッカーチームと交流試合だぞ!がんばらなくては!相手のメンバーはどんな人たちかな?」

 相手のメンバー表を広げてみると、そこには聞き覚えのある名前が記されていた。

『野々宮ありさ』

































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