お色気民話『ありさ 天狗の赤ふん』

シャイロック作


このお話は民話『天狗の隠れみの』がモチーフになっています。





第1話

 昔々、鞍馬山のふもとの猫耳村にありさと言うとても可愛いねこみみ娘がおりました。
 小さな頃から頭のよい娘でしたが、大のいたずら好きで、いつもいたずらをしては村人たちを驚かせていました。
 ありさは、村人たちがもっとびっくりするようないたずらはないものかと考えました。

「にゃあ~ん。何かうまい知恵はないかにゃ~?」

 考えているうちに、ふと天狗の赤ふんのことを思い出しました。
 天狗は村はずれの丘に時々やってくるといいます。
 ありさはふとあることが浮かびました。

 ありさはごはんを焚くときに使う火吹き竹を持って丘を登りました。
 丘のてっぺんに着くと、大きな声でしゃべりはじめました。

「にゃあ~!これはいい眺めだにゃぁ~!京や浪花が手にとるように見えるにゃぁ~!」

 そういいながら、火吹き竹をまるで望遠鏡のようにして覗いていると、杉の木のそばから声がしました。

「ねこみみや~、ねこみみや~」
「にゃ?」
「ねこみみや~、ねこみみや~」
「ぷん!私、ねこみみという名前じゃないものにゃ。ありさなのお~~~」
「おお、ありさじゃったか。すまぬすまぬ」
「にゃん」
「ところで、ありさ。覗いているのは、かまどの火を吹き起こす時に使う火吹き竹じゃろうが。」

 声はしますが姿は見えません。
 近くまで天狗は来ているはずなのに・・・。

「これは火吹き竹に似た『干里鏡』なの~。きゃっ!京の都の美しいお姫さまが舞っているにゃあ~ん!きれいな着物を着ているにゃ~ん!あんな着物一度着てみたいにゃあ~ん!」
「京の都の姫だと?ありさ、ちょっとでよいから、わしにも覗かせてくれんか」

 天狗の声がもっと近くで聞こえてきました。
 ありさのそばにきた様子です。

「にゃう~ん、でもだめなの~。この千里鏡はおうちの宝物なの~。もしも持って逃げられたらお父ちゃんに叱られるものお~~~」

 その瞬間、目の前に大きな天狗が姿を現しました。

「わしを信用しろ。逃げたりはせん。だけどそんなに心配なら、その間、わしの赤ふんを預けておこう」
「にゃぁ~。それじゃ、ちょっとだけ貸してあげるぅ~」

 ありさはすばやく赤ふんを握りしめると、さっさと丘を駆け下りて行きました。

 天狗は火吹き竹を目にあててみましたが、中はまっ暗で何もうつりません。

「しまった!だまされた!」

 天狗が気づいたときには、ありさの姿は影も形もありませんでした。


第2話

 ありさは家に帰ると、すぐに赤ふんを洗濯しはじめました。天狗とはいっても他人の下穿きをそのまま身につけるのは、ちょっと抵抗があるからです。

「うきうき~♪この赤ふんをしめると姿が見えなくなるんだもんねえ~!どこへ行こうかにゃ~~~?」

 ありさはきれいに洗って天干した赤ふんを、さっそく締めてみることにしました。でもふんどしを締めるのは初めてなので、なかなかうまく締めれません。何度か試みるうちにようやくちゃんと締めることができました。

「な~んか窮屈な感じだにゃぁ~。それにちょっと歩いただけでもアソコに食込んでくるぅ~」

 元々ふんどしは男性が締めるもの。女性が締めるといやがおうでも大事な場所に食込んでくるのでした。
 それでも、鏡の前に立ったありさは、自分の姿が見えなくなったことにすっかり気をよくして、いそいそと出掛けていきました。

 ありさが最初に訪れたのは、幼なじみの英吉の庭でした。英吉はにわとりに餌を与えている最中でした。ありさはざるをとりあげ餌を撒きました。
 突然、ざるが宙に浮き、餌がひとりでに撒かれたので、英吉はびっくり。慌てふためき、家の中へ駆け込んで行きました。

「おっとう~、おっとう~、大変だ!ざるが浮いて餌が勝手に!」

 父親が出てきて、大笑いしました。

「英吉、昼間から寝ぼけてるんじゃないよ。いくらにわとりの世話をさぼって遊びに行きたいからといって、そんな下手な嘘はつくもんじゃないよ」
「嘘じゃないって~!」

 父親が縁側に出てきたとき、ありさはざるを地面に置いて、木陰に隠れていました。

「ほ~ら、ざるはちゃんとあるじゃないか」
「でも、でも、さっきは浮いてたんだよ~!」
「さあさあ、さぼってないで、仕事、仕事~」

 ありさは懸命に笑いをこらえながら、英吉の家から立ち去りました。


 ありさが次に訪れたのは、庄屋さんの屋敷でした。庄屋さんとは顔見知りでしたが、屋敷に入るのは初めてのことでした。

「うわぁ~立派なおうちだにゃぁ~。ありさのおうちより十倍以上広いにゃぁ~」

 すると離れの方から、女性の泣くような声が聞こえてくるではありませんか。

「あんあん・・・」

「にゃっ?」

 ありさは声のする方へ近づき、戸の隙間からこっそりと中を覗いてみました。

「にゃ~~~~~っ!!!!!」

 なんと驚いたことに、庄屋さんが若い女性と素っ裸で乳繰り合っているではありませんか。

「ぎょえ~~~~~!!どえっ~~~~~!!」

 ありさは初めて見る男女のまぐわいに、いっしゅん、卒倒しそうになりました。
 しかしよく見ると女性はまだありさと同じ年頃の娘で、どうも庄屋さんところの使用人のようです。

「だんなさまぁ・・・それだけは、それだけは・・・どうかお許しください・・・あああっ・・・あああっ・・・いやぁ~・・・」

 すごいところに出くわしてしまったありさは腰が抜けそうになりました。ただただ驚くばかりです。
 すでに十六になったとはいっても、まだ男性とむつごとを交わしたことがありません。もっとそばで見たくなったありさは、しずかに戸を開けて二、三歩進んでみました。幸い庄屋さんたちは気がつかないようです。

 そばまで近寄ったありさはさらに驚きました。庄屋さんのおなかの下に、なにやら元気のよいキノコのようなものが生えているではありませんか。


第3話

(きゃぁ~~~!!庄屋さんのおなかに大きなキノコが生えているぅ~~~!!)

 そればかりではありません。庄屋さんは女性に足を開かせ、元気のよいキノコを挿し込み出し入れしているではありませんか。女性はつらそうにうめき声をあげながら、庄屋さんに許しを乞うている様子でした。

(にゃぁ~・・・かわいそうに・・・あの子、いじめられているぅ・・・)

 ありさはきょろきょろと辺りを見回しました。

(何か手頃な棒はないかなにゃあ・・・)

 ありさは部屋の隅に転がっている一本の棒切れを見つけました。

(うん、これでいい)

 棒切れを持って庄屋さんに近づきました。庄屋さんは腰を一生懸命動かしています。ありさは棒切れを振り上げ、庄屋さんの尻を思い切り叩きました。

「ぎゃっ!!」

 庄屋さんは叫び声をあげて後にひっくり返ってしまいました。

「いててて・・・おい!今わしの尻を足で蹴ったろうが!?」

 庄屋さんは女性が逃れたくて蹴ったものと思い込み、女性をとがめました。

「いいえ、私は蹴ってません」
「しかしこの部屋にいるのは私とおまえだけだ。嘘をつくとためにならんぞ!」

 庄屋さんはなおも女性を叱りつけ乱暴しようとしました。その時もう一度、ありさが棒切れを振り下ろしました。

「ぎゃっ!!」

 今度はその女性が自分と離れて向かい側に座っているのを見ていた庄屋さんは、びっくり仰天しました。すぐに後を振り返ってみましたが誰もいません。ただ、棒切れが宙に浮いているのを見て腰を抜かしてしまいました。

「うわ~~~っ!おばけだ~~~っ!」

 ありさはしてやったりと、くすくす笑いながら庄屋さんの屋敷を出て行きました。


 家への帰り道、ありさは身体の妙な変化にふと気づきました。

「ん・・・?」

 しっかりと締めこんだ赤ふんの内側がじっとりと濡れていました。

「いつ漏らしたんだろうにゃ・・・べとべとして気持ち悪いよぉ~」

 ありさはすっかりお漏らしをしたものと思い込み、顔を赤らめました。しかし濡れているのはお漏らしのせいではありませんでした。さきほど庄屋さんたちのすごいところを見てしまったときに、濡れてしまったのです。

「それにしても、この赤ふん、濡れて気持ち悪いけど、すごく便利だにゃ~ん」

 赤ふんさえあれば、いつでもどこでも姿を隠せるのでいたずらができます。


 次の朝のことでした。
 今日もどこかへいたずらをしに行こうと飛び起きたありさは、物干しざおに吊っておいた赤ふんがどこにもないことに気がつきました。

「おっ、おっかぁ~~~!さおに干しておいた赤ふんを知らないかあ?」
「ああ、あの赤ふんなら、今朝がた、かまどで燃やしたわ」
「な、なんでぇ~~~!?」
「だって、うちのおっとうのものでもないし、おまえは女だからふんどし締めないし、どこかの悪がきのいたずらだと思ったんだもの。しかしあの赤ふん、なんでおまえがいるんだ?」

 のぞきこんでみると、赤ふんはすっかり燃えつきていました。


第4話

 ありさは「あれはふんどしのように見えるが、実はふんどしの形をしたお守りだった」などと適当な嘘を並べながら、灰をかき集めました。
 すると驚いたことに、灰のついた手の指が見えなくなりました。

「にゃっ!どうやら、赤ふんの効きめは灰になってもあるみたい~!わ~い!」

 ありさはさっそく着物を脱いで身体に塗ってみました。

「ちょっと恥ずかしいけど、見えなくなるからいいもんにゃぁ~」

 塗ったところから、しだいに透明になっていきます。身体中塗り終えると、ありさはすっかり見えなくなっていました。

「よし、これで大丈夫だにゃぁ~。さっそくとなりの町へ遊びに行こう」


 町はさすがににぎやかで、たくさんのお店が並んでいます。村で育ったありさにとってはどれも珍しいお店ばかりです。ふと、団子を売っているお店がありさの目にとまりました。

「にゃっ、おいしそうだなぁ~!おなかがすいて来たし~」

 ありさは店の軒先に並べてある団子を一串つまんで食べました。団子が宙に浮いて消えていくのを見ていた店のあるじは、驚きのあまり腰を抜かしてしまいました。

「次はどこに行こうかなあ~?」


 しばらく歩くと、昼間から酒を飲ませている店がありました。

「ふにゅ?お酒飲んでるぅ~。うちのおっとうもお酒好きだし、おとなはどうしてお酒を飲むんだろうにゃぁ~?そんなにおいしいものなのかにゃぁ~?」

 ありさはさっそく、お客の横に座ると、徳利の酒を横取りしました。
 それを見たお客は「わっ」と悲鳴をあげました。

「ひぃ~!みっ、見ろ!めっ、目玉が、わしの酒を飲んでるぞ!」

 赤ふんの灰は、目玉にだけは塗ってなかったのです。

「ば、化け物め、これでもくらえ!」

 お客は、そばにあった水をありさにかけました。
 するとどうでしょう。
 身体に塗った灰がみるみる落ちて、すっ裸のありさが姿を現しました。

「な、なんとっ!裸のねこみみ娘が現れやがったぞ~!」
「きゃぁ~~~~~!!恥ずかしぃぃぃ~~~~~!!」
「おまえ、もしかして化け猫か!?それともキツネ憑きか!?こらしめてやるからじっとしてろ~~~!!」
「私、化け猫でもキツネ憑きでもないよ~!」
「身体を隅から隅まで調べれば分かることだ!それっ!」
「きゃぁ~~~~~!!ごめんなさい!!ゆるして~~~~~!!」

 捕まる前に辛うじてありさは店から逃げ出しました。
 町の中をかき分けるように裸で走り抜けていくありさの顔は、恥ずかしさのあまり真っ赤になり、それを見ていた人々は「まるで天狗のようだ」と口々に言いました。

 家に帰ったあともありさの赤ら顔はずっと取れず、生涯赤い顔のままで過ごしたと言うことです。



おしまい






ありさ











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