第11話

 急にありさへの愛おしさが込み上げてきた僕は、彼女の頬にキスをした。

「ありさちゃんって自分の気持ちに素直だしすごく積極的だね。あれほど猛烈にエッチしてきた女性って初めてだよ。あれよあれよって言ってる間に、ありさちゃんが上に乗ってきてズンズンだもの。驚いたよ」
「だってあのくらいしないと、Shyさんに断られるんじゃないかって思ったんだもの。同じ部屋に泊まって女の子にその気があるのに何も起きなかったって、す~ごく悲しいじゃん」
「うん、それは分かる気がする」
「でもさぁ、Shyさん、変なこと言うけど、女の子が男の人に強姦して捕まったって聞いたことがないよね?男が女を襲えば強姦になるのに、女が男を襲ってもどうして強姦にならないの?」
「なかなかいい線を突くね。仮に女が男に対して強姦のようなことをしたとしても、法律のうえでは『強姦罪』にはならないんだ」
「えええ~~~!そうなの!?」
「うん、『暴行や脅迫をして13歳以上の女性に姦淫した者は強姦罪』と言うことになってるんだ」
「姦淫って何?」
「男性が女性の意思を無視して無理やりエッチすることだよ」
「ふうん」
「つまりね、法律上被害者は『女性』だけに特定してるんだ。男は加害者にはなっても被害者にはなれない訳だね。もし女が男に無理やりした場合、強姦罪にはならないけど、傷害罪か強制猥褻の罪になる可能性はあるけどね」
「例えば男の人が女の子のアソコに指を入れただけでも強姦になるの?」
「いや、ならないよ。ペニスを膣に入れた場合だけ」
「へえ~そうなんだ。やっぱりShyさんって法律詳しいね」
「それはそうと、睡眠時間が無くなってしまうよ。少しでも寝ないと」
「う~ん、眠れない……ねぇShyさん?ありさを強姦してみて」
「何言ってるんだよ~、少しでも寝ておかないと明日きついぞ。明日と言うより今日だけど」

 そう言いながらも、結局欲望が睡魔に勝利し、ありさと組んず解れつ、上になったり下になったりしながら、午前11時のチェックアウトの直前まで激しい戦闘は続いた。
 不思議なことに眠気までがどこかに吹き飛んでしまったようだ。

 戦い抜いたありさに疲労の色もなく、澄まし顔で化粧台に向かっている。

(本当に元気な子だなぁ)

 すでに着替えを終えていた僕は、化粧をするありさの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
 今朝のありさは肩紐のないブラジャーと淡いピンクのTバックを身に着けている。
 ヒップアップした締りの良い尻、適度に脂肪がついて柔らかそう。
 でも触ると意外にも硬いことを昨夜知った。
 肩、腰、尻へと流れるような流線形……背中の美しさと色気は、着衣の姿からは想像もつかない。
 そんなありさの後ろ姿を見ていると、またもやよこしまな衝動が湧き起こってきたが、さすがにチェックアウトが間もなくなので自重した。

 残りの時間を考えるとUSJ周回はちょっときつかったので、新幹線乗車までの間を同じベイエリアの天保山マーケットプレースで過ごすことにした。
 天保山マーケットプレイスはUSJから見える距離にあるのだが真ん中に川があるため、シャトルクルーザーに乗ることにした。

「やった~!Shyさんと船旅ができる~」
「わずか10分なので船旅と言えるかどうか……」

 海遊館西波止場から天保山マーケットプレイスまでは歩いてすぐ。

「Shyさん、仕事で東京に来ることがあったら連絡してね。ありさもまた大阪に遊びにくるから」
「うん、分かった」
「う~ん、う~ん……」
「どうしたの?ありさちゃん」
「ありさ、大阪のモデル事務所探して就職しちゃおうかな?」
「マ、マジで!?」
「でも、シズカさんがいるしね」
「……」
「Shyさん?おなか空いたぁ~」
「あっ、ごめん、ごめん。そう言えば昨夜から何も食べてないものね。何かごちそうするよ」
「ごちそう?う~ん……じゃぁ、もう一度Shyさんを食べたいかも」
「アホか……」
「あ~~~ん!Shyさんがアホって言ったぁ~~~!バカならいいけどアホはダメ~~~!お詫びにステーキおごれ~~~っ!」
「バカもアホも同じ意味なんだけどな。ステーキ食べたいの?じゃあ行こうか」
「わ~~~い!やったぁ~~~!」
「この辺はまるで子供だな……」
「何か言った?」
「いいや、別に」

 午後4時、ありさは新幹線に飛び乗った。
 デッキで見送る僕に駅員が注意をしてきたので、仕方なく離れて手を振ることにした。
 新幹線はまもなく発車する。
 車窓から見えるありさの顔は少し涙ぐんでいるように思えた。
 新幹線が動き出すと、ありさが窓から何かつぶやいていた。
 でも窓が閉じているので彼女の声が聞こえない。
 音楽業界で言うところの口パクだ。
 口の動きからして言葉の意味を察することができた。
 4文字だった。

(だ・い・す・き)

 僕はありさに向かって手を振った。

「また会おうね!」

 新幹線での別れは、次第に遠ざかっていく船出のような情緒はない。
 あまりにもあっけなく無情にホームから瞬く間に消えて行く。

 バーチャルからリアルの世界へと飛び出してきたありさ。
 僕がホームページを作っていなかったら、おそらく彼女とは出会っていなかったろう。
 ありさとの邂逅に僕は運命的なものを感じた。

 僕はプラットホームの階段をゆっくりと降りていった。
 めくるめく一夜の想い出を胸に秘めて。





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