第3話 居直る二人

 腹部を押さえてうずくまっている俊介を、笠原が予め用意していたロープで縛っていく。
 緊縛するのはかなり慣れているようで、まるで箱を紐で梱包するかのようにいとも簡単に俊介を後手に縛り上げてしまった。

「あ、あなたぁ~!」
「旦那様って見かけによらず意気地なしなのね。あはは」
「わたしたちに何をするつもりなの?」

 あやは険しい表情で彼らに抗議をする。
 すぐに百合が答えた。

「別にあなたたちに恨みがあるわけじゃないから、痛めつけるつもりも金品を盗むつもりも全くないわ。ちょっと深い事情があってね、ここに一晩だけ泊めてくれたらいいのよ」
「事情って……?」
「そんなことあなたには関係ないわ。余計な詮索はしない方が身のためよ」

 と百合はあやの質問に釘を刺した。

 彼らは侵入した目的が遺恨でもないし泥棒でもないという。
 ではいったい何の目的で侵入してきたのだろうか。
 素性が知れないばかりか、目的も分からない侵入者と言うのは実に不気味なものだ。
 あやは思考を巡らせているうちに不安と恐怖に襲われた。

 俊介を縛り終えた笠原は一人掛けのソファにどっかと腰を下ろし寛いでいる。
 一方俊介は後手に縛られた状態で床に転がされている。
 足首にもロープがかけられその先端はテーブルの脚に括られている。
 容易に移動もできない状態だ。

(どうしてここまでする必要があるのだろうか……)

 あやは恐怖に震えながら懸命に思考を巡らせていた。

「ふぅ……やっと一息ついたな。歩き過ぎて足がガクガクだ」
「私も足がむくんじゃったわ」
「夜更けにハイキングなんて洒落にもならねぇよ。そういえばずっと飯を食ってなかったから腹がペコペコなんだ」
「私もよ」
「さっきあやと呼んでたな。あやさんよ、何か食うもの出してくれねぇかなあ。腹が減って死にそうなんだよ」
「……」
「おい、あやさん、俺の声が聞こえねぇのか?」
「何でもいいのですか?」
「任せるから適当に作ってくれ」
「分かりました……」

 一旦縄を解かれたあやは台所へ向かおうとした時、笠原に呼び止められた。

「ビールはないのか?喉が乾いた」
「ビールですか、分かりました……」
「すぐに持って来てくれ。おおっと、ちょっと待った。俺もいっしょに行くから」

 あやが台所へ向かおうとしたら、笠原がまるで腰巾着のように着いてきた。

「ふふふ、台所には包丁という立派な武器があるからな。滅多なことはしねぇと思うが用心するに越したことはねぇからな」
「……」

 冷蔵庫から缶ビールを取り出そうとしてあやが屈んだとき、突然背後から笠原があやの胸を鷲づかみにした。

「きゃっ!!やめてください!!」
「大きな声を出すんじゃねぇよ。旦那が心配するじゃねぇか。へへへ、それにしてもあやさん、揉み応えのあるいいおっぱいしてるじゃねぇか」
「いやらしいことを言わないでください」

 台所の様子が気になったのか俊介が大声を張り上げた。

「妻に変なことはするな!」
「心配しなくてもいいって。おっぱいのサイズをちょっこら確かめてやっただけだよ。がははははは~」
「妻に触れるな!」
「いちいちうるせぇ旦那だな」

 あやはトレイに缶ビールとコップを乗せ居間へと運ぶ。
 あやとともに居間に戻ってきた笠原に百合がつぶやいた。

「あやさんに変なことしちゃダメじゃん。で、おっぱいは大きかったの?」
「ふうむ、かなり立派なおっぱいだったよ」
「私より?」
「うん、百合よりずっとでっかいぞ」
「へえ、そうなんだ。私も触ってみたいな~」

 百合はあやの乳房に興味を示した。
 あやは二人の会話を耳にしてもあえて素知らぬ顔をしている。
 缶ビールをテーブルに置いたあやは縛られて横たわっている俊介を不安そうに見つめた。
 そんなあやに笠原がささやきかけた。

「あやさん、百合も触りたいんだって」
「な、何をですか……」
「そんなの決まってるだろう。おっぱいだよ、おっぱい」
「そ、そんな……」
「嫌なのか?」

 口元は笑みを浮かべているように見えるが、目はかなり真剣だ。
 瞬きもしないであやを睨んでいる。
 あやは彼らに素直に従うのが最善策だと考えた。

(この人たちを怒らせてしまって、もしも俊介に危害を加えられたら……)

「分かりました」
「よし、じゃあ、百合の横に座れ」

 長椅子に座っている百合の横にあやはおそるおそる腰をかけた。

「うふ、そんなに恐がらなくてもいいじゃん」
「手にナイフを握ってりゃそりゃ誰でも恐がるぜ」
「それもそうね」

 百合はナイフを笠原に手渡した。
 笠原は受け取ったナイフをテーブルに置き、缶ビールをコップに移さずそのままグビグビと音を立てて飲み始めた。
 よほど喉が渇いていたのだろう。

「ぷはぁ~、うめぇ~」

 百合は並んで座っているあやの胸元に手を伸ばした。
 百合の指が乳房に触れた瞬間、あやは思わずのけぞった。
 たとえ相手が同性であってもむやみに触られたくはないものだ。
 そんなあやの心情など推しはかることなく、百合は無遠慮にあやの乳房を撫で回し、あげくに揉むような仕草まで見せた。
 生まれて初めて受けた同性からの愛撫に、あやの背筋に冷たいものが走った。

「いや……やめてください……」


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あや
























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