チル 流れ星








Shyrock作






1ヶ月後に婚礼を控えたチル姫は、落着かずそわそわしていた。
チル姫(18才)はトゥルース国の長女として生まれ現在18才であった。
各国との親善パーティーの最中、彼女を見初めた各国の王子や貴族たちからは、「ぜひとも后(きさき)に迎えたい」との話が持ちきりであった。
それほどに、チル姫は並外れた美貌と才知に溢れた女性であった。
ところがその美貌、才知にもかかわらず、気位の高さはなく、気さくに貴賓の応対もこなせる社交性も持ち合わせていたため、忽ち注目の的となった。
国王は引く手数多(あまた)のチル姫の嫁ぎ先に頭を痛めた。
やがて政治的な意図もあり近隣の大国パパスの王子に嫁がせることに決めた。
しかし姫としては、パパスの王子の大国を自負する高慢ちきな態度があまり好きになれなかった。
そうは言ってもわがままの言える世ではなく、姫は己の定められた道であると諦めざるを得なかった。

その後、婚礼の準備は両国の間で着々と整って行った。
チル姫は側近の侍女に尋ねた。
「ねぇ、モニカ。結婚式のことは内務大臣から大体聞いているけど、その夜は嫁ぎ先の王子様とどんなことをするのじゃ?」
侍女のモニカは、姫のその唐突な言葉に面食らい返事に窮した。
当然ながら姫はまだ処女であった。
誰一人として、姫に対し、男女の夜の営みの方法など、説くものなどいようはずもなかったから、知らなくても当たり前であった。
モニカは苦心のすえ、姫に曖昧な返事をした。
「チル姫さま、結婚式の夜というのは、素敵な王子さまに優しく愛してもらうためにあるのですよ。」
「優しく愛してもらう?どのようにして?」
「いえ、あの…それは私もよく知りませんのですよ。おほほ…」
モニカは言葉を濁した。
チルは言葉を続けた。
「愛してもらうってどんなことをするのだろう…?それよりね、モニカ。私はあの王子様が今ひとつ好きになれないの。」
モニカは血相を変えて姫に言った。
「チル姫様、そんなことを言ってはいけませんよ。パパス王子様は、国王様が相応しい方とお決めになられた方です。滅多なことを言うものではありませんよ。」

チルはバルコニーの手摺にもたれ、遠くに光る星を眺めていた。
「ねえ、お星さま、『愛される』ってどんなものなの?教えて…。」
星は何も答えてくれず、ただその優しい煌きをチル姫に注ぐだけであった。
チルは真っ暗闇の向うの山並を仰いだ。



「私はこの城から出たことがない。いいえ、領地内は馬で駆け巡ったけど、他の国を知らない。嫁ぐまでに少しでもいい、世の中がどんなものかこの目で見てみたい。この目で確かめてみたい。」
そんな想いが胸の中に溢れ、居ても立ってもいられなくなった。
思い立てば行動が早いのもチルの特徴であった。
とはいってもこの服装のままでは、姫であることは丸分かりである。
チルは早速、クローゼットから比較的普段着ぽいものを出した。
真っ白なワンピースであった。
それと髪に白いカチューシャをつけた。
衣裳を整えて姿見の前に立つ姫。
「うん、これなら街の女に見えるはずじゃ。よし、これで良い。」
自分の姿が少しでも目立たないようにと考えたまでは良かったのだが、その姿は誰がどう見ても高貴な子女にしか映らなかった。
そしてバルコニーから1本のロープを垂らした。
一歩一歩、ゆっくりと降りる。
細い腕に力がこもる。
やっとの思いで地上に降立ったチルは、すでに自由を得た歓びに溢れていた。

だがすでに陽は暮れている。
漆黒の闇の中を歩き始めたチルは、不安を隠し切れない。
木々のざわめきすらも何か魔物の出現に思えて、サッシュベルトに結わえた短刀に手を添える。
チルは満天の星空を見上げてささやいた。
「ねぇ、お星さま、私は一体どこにいけばいいのでしょうか。どうぞお導きください。」
チルは星に祈りを捧げた。
その時であった。
東の空から西の空に流れていく一閃の煌きがあった。
それは流れ星であった。
「あっ!流れ星だ。婆やが私の幼い頃によく話してくれたわ。流れ星の落ちるところに幸せが住むという…。私の行く道は決まったわ。」
たしかトゥルース城のずっと西にはラ・ムーという街があるはず。
チルは西の方向に歩を進めた。
暗い夜道をひたすら歩いた。
かれこれ2時間は歩いただろうか。
ふだん乗馬などの運動をしてはいるが、これほどの距離を歩くのは初めてであった。
足が痛む。
しかし暗くて不気味な夜道を早く抜けて、明るい所にたどり着きたい。
そんな一途な気持ちが姫の休息を許さなかった。

やがて、ラ・ムーの街の灯りが遠くに見えて来た時、チルはほっと安堵のため息をついた。
途中、山賊に襲われなかったことは、よほど運が良かったと言える。
最近、婦女を狙った物取りが出没するという噂は、街の者なら誰でも知っている。



城外のことは何も聞かされていない、言い換えるならば世間知らずであったことが、結果、吉と出たわけである。
本来ならば腕の立つ剣士を2~3人は従えていても丁度いいくらいであったのだ。

ラ・ムーはとても賑やかな街であった。
もうすでに夜更けだというのに、人の往来も多く、店屋もまだかなり開いていた。
チルは喉が渇いていた。
また、着の身着のままで出て来たため空腹感に襲われていた。
閉店間際のくだもの屋の親父が、並べてあった商品を片付けていた。
チルは、店頭のリンゴをひとつ手にとって、親父に一言いった。
「そなた、これをひとつ貰うぞ。」
「これはこれはきれいな娘さんだね、いらっしゃい。もう店を閉めるからまけとくよ。1個、1フランにしておくよ。」
「え…?1フラン?もしかしたら金のことか?そんなものはない。」
「ないって~?そんな馬鹿な~。からかっちゃいけないよ~、いくらきれいな娘さんでもさ~。さあ、早く払ってくれよ~。」
「いや、本当にないのだ。」
「なけりゃ、悪いがそのリンゴは売れないな~。」
「そうか…。ダメか。仕方がない。」
チルは手に持ったリンゴを親父に返そうとした。
親父は怪訝な顔付きでチルに言った。
「ところであんた、相当高貴な方のようだね。その服装といい、言葉づかいといい。どこかの貴族の娘さんだろう?何か訳があって、家を飛び出したんだね。」
「いや、そんな者では…。」
「うん、言わなくてもいいよ。何か深い訳があるんだろう。このリンゴやるよ。持って行きな。」
親父はそういって、チルにリンゴを二つ手渡した。
「くれるのか?それはすまない。礼を言うぞ。」
「それはそうとあんたそんな目立つ格好で街を歩いていると、性質の悪い奴に狙われるぞ。気を付けた方がいいよ。」
「この服装はそんなに目立つか?」
「はっはっは!街の娘はそんな良い服を持ってないよ。」
「そうか。目立つか…。気を付けよう。ありがとう。」
チルは礼を述べて、店屋を後にした。

チルは歩きながらリンゴをかじろうとしたが、あまりのも行儀が悪いと思い、狭い路地を曲がり、置いてあった空き箱に腰を掛けた。
そして空腹を満たすため、早速親父に貰ったリンゴをかじった。
口の中に甘酸っぱさが広がった。
それは初めて出会った街人の優しさと、生きていくためには金というものがいるという教訓。
まさに甘さと酸っぱさとを同時に味わった思いであった。



「おい、姉ちゃん。きれいなベベ着て、こんな所でリンゴをかじって。どうしたんだい?家から追い出されたのか?オイラに付合えよ。いっぱい美味いものをご馳走してやるぜ。」
急に人相の悪い男が二人、チルの前に現われた。
世間知らずのチルとはいっても、彼らの人相を見れば、まともな男たちではないことが一目で判った。
チルは冷たく言い放った。
「いらぬ。私はこのリンゴが気に言っておる。」
彼らを無視してリンゴを食べ続けた。
その時、1人に男がチルの食べかけのリンゴを手で払い除けた。
リンゴは石畳に叩き付けられ、グシャリと潰れてしまった。
「何をする!この、無礼もの!」
「ふひょ~!無礼者だってさぁ?おい、聞いたか?俺たちが無礼者だって~。ははあ、こりゃ、可笑しいや~。」
「ふん、何を気取ってやがるんだ!どこの高貴なお嬢さんか知らねえが、この街では通用しねえぜ~!おい、相棒、この可愛い娘にちょっと思い知らせてやろうじゃないか~。」
「そうだな~。そりゃあ、面白いぜ!そのきれいなオベベをひん剥いてやるぜ!」
「キャア~!何をする~~~!」
二人の男たちはチルを押え込み、スカートの裾を捲り上げた。
真っ白なペチコートがひらりと彼らの目に飛び込む。
「おい、ペチコートの奥を見たか!?ドロワース(ズロース)を穿いていやがるぜ!この娘、間違いなく高貴なお方の娘だぜ。こんなラッキー滅多とないや。絶対に抱かなきゃ損だぜ~!おい、早く脱がせてしまえ!」
1人の男はチルのスカートとペチコートを捲り上げ、もう1人の男はチルのドロワースをひっぱりに掛かった。
だが、コルセットを着用し、ドロワースも紐で結わえてあったから簡単には脱がせられない。

彼らがもたついている間に、真後ろから一喝する声が聞こえた。
「おい、貴様ら、か弱いご婦人に何をしているのだ。」
彼らは振り返った。
そこに1人の黒服を着た精悍な人相の男が立っていた。
グレーの髪が風になびいている。
「何者だ?てめえは。じゃまをするな!」
悪漢の1人は言うが早いか、小刀を振りかざし、黒服の男に襲い掛かった。
その瞬間、黒服の男は剣を鞘から抜かないで、男の鳩尾(みぞおち)を一突きした。
「うっ!」
男はそのまま地面に倒れこんだ。苦しくて声が出ないようである。
もう1人の男は、これは敵わないと見たのか、相棒を肩にかかえて一目散で逃げていった。



「くっ、くそ~!憶えてろよ~!」
「今度、また悪事を働くと真っ二つに、たたっ切るぞ。」
黒服の男は一目散に逃げ去る悪漢の背中に言葉を浴びせた。

「お嬢さん、怪我は無かったかい?」
「大丈夫じゃ。すまぬ、助かったぞ。礼を言う。」
「こんな夜更けにひとり街の中を歩くというのはちょっと無茶というもの。宿はとっているのか?」
「宿…?ない。」
「ない?それはいけない。まさか野宿というわけにもいくまい。良かったら僕の家の来なさい。妹もいるし。」
チルは黒服の男の目を見つめた。
鳶色の瞳をしている。そして澄んでいた。
襲われたショックはまだ残っていたが、目の前に救世主のように現われた男の瞳に吸い込まれそうな何かを感じたのであった。
チルは少し考えてから、黒服の男に言った。
「では、言葉に甘えるぞ。」

黒服の男の名前はシャロックと言った。
歳は25才。年の離れた13才の妹と二人暮らしをしていた。
彼らの両親は、すでに他界していたので、シャロックが父親代わりになり妹の面倒を見ていた。
およそ10年前に家に暴漢が押し入り、抵抗した父親とともに母親も殺害されたのであった。
シャロックは15才から働きに出、貧しいながらも生計を立てていた。
だが、シャロックの犯人への恨みは消えることはなかった。
いつの日か、必ず復讐すると心に誓った。
そのためには強くならないくてはならない。
シャロックは近所に住む剣士に剣の扱い方を学び、めきめきと腕を上げていった。
ある日、城下の御前試合に出場し、19才で見事優勝を果たしたのであった。
当然、城からは王を守る近衛兵に抜擢したいとの誘いがあった。
しかし、シャロックはその光栄なる誘いをきっぱりと断った。
近衛兵になれば、復讐という勝手な振る舞いはできなくなるからであった。
だがトゥルース国はあれだけの腕を持ちながら、埋もれさせるのは惜しいと考え、彼に兵士への剣の指南役を依頼した。
この依頼は、シャロックも快く引き受けることにした。
あくまで非常勤嘱託のような立場であったからである。

チルはシャロックの家を訪れた。
町屋の家庭を見るのは初めてである。
見るものすべてが珍しい、城と比べれば何もかもが粗末なものではあったが、何故かしらチルは暖かい何かを感じ取ったのであった。
妹は、マリアンヌという名前であった。
チルと同じブロンドの美しい娘であった。



チルの気品漂う美しさと身につけていた高価な衣裳に、多いに感動したようですぐに懐いて来た。
「うわ~!きれいな人だぁ~!まるでお城のお姫様みたい~。ねえ、名前はなんて言うの?私はマリアンヌよ♪」
「はじめまして。私は、え~と、チル…いや、チルチルというの。よろしくね。」
「ねえ、お姉ちゃんって、お兄ちゃんの恋人なの?」
「ええ?うふふ…違うわ。」
そこへシャロックが口を挟み、さきほどの経緯を妹に語って聞かせた。
マリアンヌはそれに聞いて、「そうだったんだ。危ないところだったんだね。助かって良かったね、お姉ちゃん。お兄ちゃんがいたら、安心だよ~。いっそ、お兄ちゃんのお嫁さんになったらいいのに~。」
「バカ、余計なことを言うな。」
シャロックはマリアンヌを叱った。
「しかしマリアンヌちゃんの言うとおりだわ。お兄様はとても強い方だから安心だね。」

シャロックはチルがまだ食事を済ませていないことを知り、急いで残っていたシチューを暖めた。
チルは嬉しかった。
城から出て来て、初めて味わう家庭の味。
それは城の贅を尽くした料理とは比べようもなかったが、心から美味しいと思ったのであった。
チルは空き部屋を一部屋与えられた。
寝床について、激動の1日に相当疲れたのであろう、深い眠りに落ちて行った。

チルが目を覚まし、台所に行くと、マリアンヌがせっせとデコレーションケーキを作っていた。
「まあ、美味しそうなケーキだこと。今日は誰かのお祝いなの?」
「うん、そうなの!今日10月21日はお兄ちゃんの誕生日なの~!」
「ええっ~!?」
チルは驚いて大声をあげた。
「どうしたの?お姉ちゃん?」
「あのね、10月21日は私も誕生日なのよ。すっかり忘れてたわ。19才になるの。」
「え~っ!そうなんだ。チルチルはお兄ちゃんと同じ誕生日なんだぁ~。それじゃ、今日はいっしょにお祝いをしなくては~。」
「ありがとう~。嬉しいわ。いっしょに祝ってもらえるなんて。」
チルは昨年の自分の誕生日を思い出していた。
多くの来賓を招き、盛大に舞踏会が開かれ、話題の中心であった。
その時に招かれていたパパス王子に、知らない間に見初められたのだった。
チルは当時のことを振り返り、今ここにいることを不思議に思った。



それにしても自分が城から急にいなくなって、きっと父母もきっと心配しているだろうと少し気掛かりになった。
だけど、今、すごく楽しい。
シャロックといい、妹のマリアンヌといい、すごく気さくで良い人達だ。
城には無い暖かさを彼らは持っている。
ここにずっととどまることは無理とは判っていても、少しでも長く居たいと思った。

「ねえ、マリアンヌちゃん、ケーキの作り方教えて?私も作りたいな~。」
「うん、いいよ~。あれ?お姉ちゃん、作ったことないの?」
「へへ、実は初めてなんだ。教えてね?」
「うん、これを絞ってね、そうそう、それから…」
二人はケーキ作りに励んだ。

夕方になって、シャロックが仕事から戻り、3人とはいえ、賑やかなパーティーが催された。
チルも赤葡萄酒をかなり飲みすぎて、顔がかなり火照った。
「シャロック、マリアンヌ、ごめんね。先に休ませてもらうわ。」
ふらつきながら部屋に向かうチルを、シャロックは肩を貸した。
チルはとくに着替えもしないで、そのままベッドに横になった。

「さあ、マリアンヌ、夜も更けたしぼちぼち寝ることにしようか。」
「うん、そうだね、お兄ちゃん。今日は良かったね。すごく楽しいバースデイパーティーだった。」
「うん、ありがとう、マリアンヌ、楽しかったよ。」
「それじゃ、お兄ちゃん、お休み~。」
「お休み。」

シャロックはチルの様子が気になり、眠る前に様子を見に行った。
「チルチル、だいじょうぶか?ふだん、そんなに飲まないのだろう?」
「ふぅふぅ…だ、大丈夫よ…あんなに飲んだの初めてなの。」
「ねえ、チルチル、ひとつだけ聞いてもいい?」
「うん、なに?」
「もしも違ってたら、怒らないでね。チルチルは本当は、トゥルース城のお姫様じゃないの?」
「違うわ!私はある男爵の娘です。わけあって家を飛び出して来たのよ!」
チルはムキになってシャロックに言った。
「そうか…すまない。実はね、今日妙な噂を聞いてね。トゥルース城の姫君が突然消えて、手分けして探しているそうなんだ。それで見掛けたら連絡をしろろと…。それにちょうど1年前に、お城のパーティーに招待され、その時遠目に見たお姫様と何となく似ているような気がしたもので。」
「だから、違うってぇ~。私はチルチルよ。チル姫様のことは知りません。」



「ああ、ごめん、ごめん、怒らないで。ところで、気分はちょっとマシになったようだね。それじゃ、僕も寝るよ。お休み…」
「あぁ、シャロック…ちょっと待って。」
「何かようかい?」
「うん、今度は私からひとつ聴いてもいい?」
「うん、なんだい?」
「愛される…ってどんなことなの?教えて?」
「えっ?なんだって?愛される…こと?」
「うん。」
「う~ん、難しい質問だな…、そうだね、大事に思われて、誰よりも可愛がってもらうことかな?」
「そうなんだ。じゃあ、結婚式の夜って、どんなことをするの?」
「えええ~っ!なんでそんなことを聞くの?」
「あなたも教えてくれないのね?いいよ、もう…」
チルは少しいじけた。
「いや、あの、その~…、説明できないことはないけど、それはちょっと…」
チルはシャロックの手を握って囁いた。
「口で言いにくければ、私にやってみて。結婚式の夜に男性が女性にどんなことをするのかを…。」
「チルチル…」
シャロックは驚きを隠せなかった。

だが次の瞬間、シャロックはチルの真上に乗り、強く抱きしめた。
「あぁ、チルチル、僕は君が好きになってしまった。」
チルは抱きしめられたことがすごく嬉しかった。
「それじゃ、私を愛してくれるの?結婚式の夜と同じことをしてくれるの?」
「うん、そうだよ、チルチル。君を愛するとも。」
「嬉しい…」
二人は何度も何度も嘴を合せる小鳥のように、唇を重ねあった。
シャロックは、チルの白いワンピースの胸元を開くと、ビスチェが覗いた。
肩紐を降ろすと美しい胸の隆起が現われた。
乳房にそっとくちづける。
やがて衣擦れの音が、物音ひとつない部屋の中に響く。
白いワンピース、ペチコート、シュミーズ、ビスチェ、コルセット、すべては取り除かれて行く。
今まで脱衣はすべて侍女に任せていたチルであったが、今は男の手に委ねている。
身体を覆うものは真っ白なドロワース(ズロースとも言う。姫はショーツを穿かない)1枚であった。
チルの緊張はどんどんと高まっていく。
突然、チルがシャロックに言った。
「シャロック、喉が渇いた。水を…。」
「え?水が飲みたいの?全く、こんなタイミングで…。」
「いけなかったのか?」
「ふふふ、いいよ~。」
シャロックは苦笑いしながら、水瓶から水を汲んだ。



チルはごくごくと水を飲み干したあと、愛の営みは再開された。
ドロワースの紐を解くシャロック、チルが震えているのは指に感じられる。
紐は解かれ、ドロワースはゆっくりと脱がされて行く。
透き通るように白い木目の細かな肌が現われた。
シャロックは一瞬唾を飲む。
白い肌とは対照的に、中央には薄っすらと黄金色の林が繁っていた。
黄金色の林をかき分ける指は、ピンク色の小川を見つけた。

いまだかつて男の指に触れられたことの無い、チルの秘密のベール。
チルは直前になりかすかな抵抗を試みた。
「あ…いやぁ…」
だが、シャロックの指は止まらなかった。
小川をゆっくりとまさぐる。
(クチュ…)
「あっ…」
シャロックはゆっくりゆっくりとチルの小川を撫で慈しむ。
「チルチル、どうだい?気持ちがいいかい?」
「あ…でも、まだよく判らない…だけど、何だか変…」
(クチュクチュ、クチュクチュ…)
まだ幼子のようなピンク色のそれに、シャロックはくちづけをした。
「はぁ!そんなことを…するの…」
チルは羞恥に包まれた。
最も恥ずべき場所に、まさか男(おのこ)のくちづけを受けようとは思わなかったのだった。
チルは膝を閉じようと試みる。
だがシャロックはそれを許さない。
小川に沿って、巧みな舌先が動き回っている。
シャロックは実を見つけ、それも丹念に舌先で転がした。
やがてチルは反応し始めた。
「シャロック…何か変な気分…」
チルの声が上擦っている。
やっとのことで、小川に潤いが現われた。
シャロックはもう頃合いと見て、チルに言った。
「チルチル、これを触ってごらん?」
シャロックは自分の大きくなった雷(いかずち)をチルに触れされた。
チルは恐る恐る触るが、それが異様なものと思い手を引っ込めた。
「チルチル、恐がらなくてもいいよ。男が、興奮すれば、誰でもこのように大きく硬くなるんだよ。」
「えっ?大きくなるって、男の股間にあるといわれてるモノか?」
「チルチルはまだ男の裸を見たことが無いのだね?」
チルは顔を赤らめ、ムキになっていった。
「当然よ!そんなもの見たことも無いわ。」
「そうか…。それじゃ、僕が教えてあげるよ。男と女の身体はね、ここが一番違うんだよ。やがて男と女の間に愛が芽生えれば、二人の異なるこの部分を結合するんだ。というか自然にそうしたくなるものなんだ。」


10
「ふ~ん、そうなの…」
チルは真剣にシャロックの話に聞いていた。
「それじゃ、僕のこの大きくなったモノをチルの身体の中に埋め込むよ。」
「えっ?どこに入れるの?」
シャロックはチルの秘部を指で撫でて教えた。
「ここだよ。」
「ええ~っ!こんな狭い所に~?痛くないの?」
「うん、最初は痛いさ。でも2度目からはそれほど痛く無いよ。というか気持ちがよくなって行くんだよ。」
「ふ~ん…」
「それじゃ入れるよ。」
シャロックはチルに覆い被さり、腰を前に突き出した。
「え?うそ…待って…あっ!い、いた~~~い!」
チルはあまりの痛みのため、シャロックから逃れようともがいた。
だがシャロックはチルの身体をがっちりと固めていたから、チルは逃れようが無かった。
「ああ、シャロックぅ、痛い、痛いよ~」
「最初だけだよ。がまんして。」
チルは彼のその言葉に従うことにした。
今は痛いがやがて良くなるというその言葉を。
それでもシャロックが腰を動かすたびに痛みが加わる。
やがてシャロックは果て、チルの初夜は終わった。
チルの下に敷いてあったシーツは真赤に染まったしまった。
「シャロック…、痛かったけど何だかすごく嬉しい…何が嬉しいのかよく解らないんだけど…。」
「チルチル、素敵だったよ。君はなんて素晴らしいんだ。」
シャロックはチルを抱き寄せて、髪を撫でた。
チルはシャロックに抱きしめながら深い眠りに落ちて行った。

次の夜、シャロックはチルの部屋に行きたかった。
だけど何か罪意識も手伝い、布団を頭から被って耐えた。
それでもチルの姿が眼に浮かび、なかなか寝付けなかった。
やっとの思いで眠りかけた頃に、誰かがドアを開けて忍び足で入って来た。
それはチルであった。
そして驚きを隠せないシャロックに言った。
「眠れないの…いっしょに寝てもいい?」
「ええ?そうなの…。うん、それじゃ、こちらにおいで。」
シャロックは掛け布団を開き、チルを導いた。
それから、いつしか二人は抱合っていた。
チルは、昨夜よりも痛みが少ないと感じた。
いや、それどころか何か今まで感じたことない感触が少し芽生え始めていた。

二人は夜が来るたびに抱きあった。
「チルチル、君がどんな素性の人かは知らないけど、僕は君のことがとても好きだよ。」
「シャロク、私もあなたが大好きよ。あなたを失いたくない…。」


11
チルがシャロックの家に泊まり始めてから、6日目の夕方のことだった。
マリアンヌとともに夕飯の支度に精を出していた。
今まで調理人の作った物を食べることが当たり前であり、城内の厨房にも入ったことの無かったチル。
マリアンヌと作る料理をおおいに楽しんでいた。
その時、玄関先で何者かがズカズカと入ってくる靴音が聞こえて来た。
どうもシャロックではなさそうだ。
「おい!この前の礼に来たぞ~!シャロックはいるか!今日は腕利きのオーマン様を連れて来たぞ!」
「キャー!!」
マリアンヌは叫び声をあげた。
チルは気丈に彼らに言った。
「シャロックは留守よ。何よ、あなた達、ここはあなた達の来る所じゃないわ。帰ってよ!」
「ほっほう、この前の娘だな?あれ~?もうシャロックの嫁さん気取りか!?はっはっは~!シャロックって野郎は手が早いぜ、グァッハッハッハ~!」
これを聞いたマリアンヌが血相を変えて、悪漢のひとりに飛びかかった。
「お兄ちゃんの悪口を言うと許さないわ!」
(ドテーン!)
マリアンヌは悪漢にいとも簡単に突き飛ばされ、床にうずくまった。
「あああ~、マリアンヌちゃん!大丈夫?この子に手を出さないで!」
「あんたは相変わらず気が強そうだね~。うっひょっひょ~♪今日はシャロックがいねえから、仇は討てねえけど、代わりにあんたら二人をやっちまおうか?なあ、先生?」
頭の禿げ上がった大男のオーマンが笑って答えた。
「う~ん、シャロックがいないのか。それは残念だな。仕方がない。久しく女を抱いてないし、この娘達は美味そうだ。おいっ!てめえら、この娘達を脱がせろ!」
「へへ~!そうこなくっちゃ~!さあ、お嬢ちゃん達、おじさん達が可愛がってあげるよ~、大人しくしな。」
危険を察知した、チルはマリアンヌに大声で叫んだ。
「マリアンヌちゃん!逃げるのよ!」
チルは今にも泣き出しそうなマリアンヌの手を掴み、玄関先へ逃げようとした。
ところが一番後ろにいた男が出口を塞いでしまったのであった。
逃げられないと観念したチルは、必死の形相で彼らに哀願した。
「ねえ、あなた達、私を好きにしていいわ。でもあの子には手を出さないで。お願いだから。あの子はまだ13才なの、子供なの。ねえ、私の願いを聞いて。」


12
大男のオーマンがにやけて言った。
「ふふふ、面白い。確かに俺はガキには興味はねえよ。その代り、あんたは俺たちの自由にさせてもらうぜ。」
手下の男が不満そうに言った。
「先生、確かにこの女はすげえ美人だし、抱くには文句はねえけど、あのガキももう胸が膨らんでますぜ。両方、やっちまいましょうぜ。」
「ばか野郎!ガキまで手を出したんじゃ寝覚めが悪いぜ。俺の言うとおりにしろ!」
オーマンの一言ですべては決まった。
チルはマリアンヌに言った。
「とにかくここから早く逃げなさい。さあ!」
「お姉ちゃん…お姉ちゃんを置いて私だけ逃げられないよぅ…」
マリアンヌはボロボロと涙を零していた。
チルは先ほど以上に強い口調で言った。
「さあ、早く!」
マリアンヌは、何度も泣き顔で振り返りながら表に出て、何処へか走り去った。

ドアに鍵が掛けられた。
脅えるチルに3匹の野獣は、一斉に襲い掛かった。
気丈夫にも短刀を抜いて立ち向かおうとしたチルであったが、簡単に奪われてしまった。
そればかりかその短刀で衣服は見るも無残に引裂かれ、たちまち丸裸にされてしまった。
それでも床を這い回り逃れようと試みるチルに野獣は牙を剥き出しにした。
二人の男に押さえつけられ、正面からオーマンに果かなく蹂躙されてしまった。
オーマンは思う存分蹂躙し終えた後、チルに質した。
「あんた、どこかのお姫様じゃねえのか?え~?俺には判るぜ。街の女とは全然違うからな。」
チルは彼らの言葉には一切、耳を貸さなかった。
手下どもはオーマンの言葉を聞いて余計にいきり立った。
いつ果てるとも知れない惨劇は延々と続くかに見えた。

だが、強靭な力でドアを蹴破る轟音とともに彼らの野望は終りを告げることになった。
ドカーン!メリメリ~!
突如、ドアが突き破られひとりの男が飛び込んで来た。シャロックであった。
「くぅ…遅かったか…チル姫、許してくれぇ…」
チルは慌てて床に倒れた身体を起こし、とっさにぼろぎれとなった衣服の破片で胸を覆った。
シャロックの表情が見る見る変わっていった。
「くっそう!貴様ら、許さん…」
シャロックは剣を抜き、うろたえる手下の1人の腹を貫いた。
もう1人の手下が慌てて、小刀で切りかかったが、腕の差が歴然としていた。


13
あっさりともう1人の手下の首も貫かれ、床にバッタリと倒れこんだ。
オーマンが、無様な格好のまま、やっとの思いで剣を取り、シャロックに戦いを挑んだ。
だが、たった一度剣が合う閃光は見せたものの、彼とてシャロックの前では敵ではなかった。
その太い胴体を二度まで突き刺された。
叫び声が轟き、大木のような巨体は床に倒れた。

シャロックは剣を収め、チルのそばに行った。
「チルチル…許してくれ…僕の油断であった。汗まみれで走って来た妹から事情を聞き駆けつけたが遅かったか。」
「シャロック…恐かった…」
チルはシャロックに抱きしめられて、号泣したのであった。
シャロックは裸同然のチルの背中に、自分の上着を脱いでチルの肩に掛けた。
「傷は時間を掛けて治そう。必ず癒えるから。ね?」
「もうだめ~!私はもうあなたに抱いてもらう資格なんてないわ~!」
「何を言っている。チルチル…いやチル姫…これは怪我だ。怪我をしただけなんだ。」
「え!?私がチル姫であることを何故…?」
「そのペンダントだよ。そのペンダントの紋章で判ったんだ。でも、君を失いたくないから言い出せなかったんだ…。黙ってて悪かったね。」
「そうだったの…。」
「でもね、チル姫、もう城に帰らなくては。お向いの兵士達も来てるよ。」
「いや~~~!私は、私は、城には戻りたくない!ここで、ここで暮らしたいの!シャロックやマリアンヌちゃん達と楽しく暮らしたいの~!」
「そりゃあ、僕だって同じさ。でもそれはできないんだよ…。」

その時、表から近衛兵と内務大臣や侍女が入って来た。
「チル姫様、お迎えに上がりました。事情はすべてシャロック殿からお聞きしました。お辛かったことでしょう。痛ましや…。されど、今日のことは一切、内密にしたいと思います。ご心配召されるな。」
この時、チルはシャロックに何やら耳打ち話をした。
(ねえ、夜のこと…話したの?)
(まさか、そんなこと言うわけないだろう?)
シャロックはチルの顔を見て苦笑いした。
チルも笑った。

身支度を整えて、兵たちとともに城に向かうチル姫の姿があった。
シャロックとマリアンヌは見送ることにした。
マリアンヌは泣いていた。
「(シクシク…)お姉ちゃん、帰っちゃうの?寂しくなるね。もういっしょに料理は作れないの?」
「そうなの、マリアンヌ。帰らなくてはならないの。料理楽しかったわ、とても…。」


最終回
チルは目頭を押さえた。
そんなチルの目頭をシャロックはハンカチで拭いてやった。
「チル姫、いやチルチル、しばらくの間だけどとても楽しかったよ。君のことは忘れないよ。いつまでも。」
「シャロック…私だってあなたのことは生涯忘れないわ。いつの日か、またいつの日か、会えたらいいね。」
「そうだね。でも、それはきっと無理だろう。僕は今、君の姿をこの瞼に焼きつけておくよ。消えないように…。」
「シャロック…ありがとう…」

チルは細い首から王家の紋章が入ったネックレスを外した。
そしてシャロックのてのひらに乗せた。
「これを、これを私の形見と思って持ってて…」
「うん、大事にするよ…チル…さようなら…」
チルはもう声が出なかった。
侍女のモニカがチルに駆け寄り、兵たちや馬車の居並ぶところへ連れて行った。

馬車は動き出した。
馬車の窓から手を振るチル…
その姿がだんだん小さくなって行った。
そして、見えなくなった。
















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