第8話 プレゼント

 その後機会がある毎に衣葡への加虐は続き、その都度痴態を録画したSDメモリーカードは一本づつ返還された。
 特に夫が泊付きで出張したときや社員旅行時は夜を徹して凌辱を繰返した。
 やがて衣葡の表情にも諦めの色が浮かび、意外と従順になっていった。

◇◇◇

 そして二年の月日が流れた頃、衣葡の口から夫の転勤を聞かされた。
 俺たちはとても残念に思ったが、これが潮時かとも思った。
 こんな形ではあっても、二年もの間、抱き続けると情が湧くのが当たり前というもの。
 いつしか俺は衣葡を不憫にさえ思うようになっていた。
 そうはいっても、ほかの二人にやめようとは言い出せなかった。
 いや実に手前勝手な話だが、美人妻衣葡を手放すことに俺自身が惜しいと思っていたのかも知れない。

 やがて早乙女夫妻は、別れの挨拶に訪れた。
 夫は相変わらず、ゴルフコーチをしてもらったことへの礼ばかりを述べていた。

(それにしても何という鈍感な男だろうか……二年経った今でも妻の状況を知らないとは……)

 俺は形式ばった挨拶を交しながら、衣葡の顔をちらりと見た。
 彼女はうつむいたままで、こちらを見ようとはしなかった。

◇◇◇

 それから三か月が過ぎた。
 夜、寝床に入った頃、枕元のスマートフォンに電話着信が入った。

(こんな時間に誰だろうか……?)

「ごぶさたしています。衣葡です。その節はお世話になりました。その後、皆様お元気でお過ごしですか?」
「あっ、これはこれは。久しぶりだね~。元気かい?こちらはみんな相変わらず元気にやっているよ」
「あのぅ……今度の日曜日そちら方面に行く用事があるもので、よろしければ会っていただけませんか?久しぶりに……」
「ええっ!?会いたいって……?マジで……!?」

 散々酷い目に遭わした俺たち三人に会いたいとは、一体どういう風の吹き回しだろうか。
 俺は天地が逆さになったような驚きを覚えた。
 驚きのあまり次の言葉が出てこない。
 すると衣葡の方から、

「はい、真面目です。正直言ってあなたたちと別れてからホッとした半面、平凡な生活が何だか物足らなくて……」
「ほう、嬉しいことを言ってくれるね。それじゃほかの二人にも言っておくよ。君が会いたいと言っていたと聞けば、何を置いてもきっと来るはずだ」
「ありがとうございます。じゃあ場所は追ってもう一度連絡しますので」
「うん、分かった。あれ以来会えなくなって、君のあの柔肌が恋しくて仕方がなかったんだよ。はっはっは~、じゃあ楽しみにしているからね」

◇◇◇

 次の日曜日の朝、衣葡はドレッサーの前に座り化粧をしていた。
 メイクはちょっと濃いめで、マスカラはしっかりと、そして真紅の口紅を引く。
 赤いワンピースと赤いパンプス、それに同じ色を合わせて赤いバッグ。
 それはまるで血のように……

「さあ、準備はできたわ。あ、そうそう、お世話になったあの人たちに大切なプレゼントを忘れちゃいけないわ」

 衣葡は棚から薬瓶を手に取った。
 薬瓶には『シアン化カリウム(KCN)』というレッテルが貼られていた。






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