イヴ姫 ミルキーウェイ外伝(改)

Shyrock 作








 コットンコットンコットン、コットンコットンコットン……
 ミルキーウェイという小川の西の方から 機(はた)を織る軽やかな音が聞こえて来ました。
 イヴ姫は 天界の美の女神アフロディーテ様の娘で、機を織るのが仕事でした。
 イヴ姫の織る機は、薄いピンクや薄いグリーン等パステルカラーが多く、天界の神様の間ではその優しい色使いが大変評判でした。

 イヴ姫が毎日一生懸命機を織っている姿を見た母親のアフロディーテは ある日イヴ姫に言いました。

「イヴ姫、たまには手を休めて女の子らしく化粧でもしたり、素敵なボーイフレンドとデートを楽しんだりしたいのではありませんか?」

 するとイヴ姫は、にっこり笑ってこう言いました。

「嫌だわ、お母様。私はこうして機を織っているだけでとても楽しいのです。エッチなんてまだまだ……」

 イヴ姫は頬を赤らめてアフロディーテに答えました。

「え?私はボーイフレンドとデートを楽しんだりとは言ったけど、エッチしろなんて一言も言ってませんよ。もうこの子ったら早合点して……」

 アフロディーテは、イヴ姫が年頃の娘らしく恋に憧れていると感じました。

「あ、そうだわ。イヴ姫に素敵な彼氏を探してやろう。そしてイヴがその気になったら結婚させてやればいいんだわ。そうすれば、きっと本当の幸せを掴めるはずだわ」

 そう考えたアフロディーテは、どこかによい若者がいないかと探しに出かけました。

 ミルキーウェイの東に、羊飼いをしているシャロック・スターというひとりの若者を見つけました。
 アフロディーテはシャロックがまじめに羊の世話をしている姿を見て、シャロックのことをとても気に入りました。

「仕事にまじめというのが一番だわ。隣村の女の子を追っかけたり、ちょっと女好きというのが難点だけど、ルックスも私の好みだし、まあいいかな。イヴ姫に出会えばきっと変わってくれるはずだわ」

 アフロディーテは娘の器量のよさと性格のよさに自信を持っていました。

「そりゃあ、あの子は私に似て、超美人だもの~」

 アフロディーテはふたりを交際させることに決めました。

 ふたりも母親の期待に応えるかのように、出会ってすぐに恋に落ちたのでした。
 それから1か月後、ふたりはめでたく結婚し、とても仲のよい夫婦となりました。
 ふたりが夜毎、激しいほどのエッチに励んだのは言うまでもありません。
 アフロディーテはイヴ姫が幸せになれたて良かったと大変喜びました。

◇◇◇

 それからのふたりは、来る日も来る日も遊んでばかりいました。
 ミルキーウェイできれいな星を拾ったり、大空を駆け回るペガサスに乗ったり、もちろん家に帰るとエッチばかりして……でも、ふたりはとても幸せに包まれていました。

 いつのまにか……
 イヴ姫とシャロック・スターは仕事のことなどすっかり忘れていました。
 そんな様子を見ていたアフロディーテがふたりに言いました。

「あなたたち、ぼちぼち仕事をしたらどうなの?」

 するとふたりは

「はい、分かりました!」

 と良い返事をして、また遊び始めました。

 ミルキーウェイの羊は、シャロックが世話をしなくなってから痩せ細り、汚くなってしまいました。

「このままでは病気にかかってしまう」

 アフロディーテは心配になりました。
 天界の神たちも、イヴ姫が機を織らなくなりとても困っていました。

「イヴ姫はどうしたのかしら。私たちには新しい服がありません。見てください。今着ている服はこんなにみすぼらしくなってしまいました」

 アフロディーテの怒りがついに爆発をしました。
 ある日、ふたりを呼びつけて言いました。

「あなたたち!仕事もしないで遊んでばかりいるとは何事ですか!もう ふたりでいっしょに暮らすことは許しません!元どおりミルキーウェイの東と西に別れておしまいなさい!」
「別れるだなんて、それだけはお許しください」

 ふたりは泣きながら頼みました。
 だけど、アフロディーテはふたりの願いを聞き入れてくれませんでした。

 ミルキーウェイの両岸に立つふたりの間に大量の水が湧き出て、あっという間に大きな川になりました。
 川はみるみるうちにどんどんと大きくなり、ふたりは別れてしまいました。

 ふたりは手を振って、別れを嘆き悲しみました。
 川はますます大きくなり、手を振っても見えないほどになってしまったのです。
 こうしてふたりは、ミルキーウェイの東と西に離れ離れに暮らすことになりました。

◇◇◇

 それから毎日というもの、イヴ姫はシャロックのことを思い出しては泣いてばかりいました。
 アフロディーテは言いました。

「あなたはそれほどまでにシャロックに会いたいのですか?それならあなたたちが以前のようにしっかりと仕事をするのなら、1年に一度、7月7日の夜にだけ 会うことを許してあげましょう」

 それからというもの、ふたりは7月7日になるのを楽しみに、イヴ姫は機を織るようになり、シャロックも羊の世話をするようになりました。
 イヴ姫の織る機は再び評判になり、シャロックも女の子に見向きもせずとてもよく働く若者と噂をされるようになりました。
 ふたりの働く姿は、前にも増して一生懸命でアフロディーテも安心しました。

 そして、待ちに待った7月7日になると、ふたりはミルキーウェイを渡り、1年に1度のデートをするのでした。
 その光景を見た人の話によると、わずか一夜だけなのに48種類もの体位を試みるその気迫は凄まじいとのことでした。

 でも雨が降ると、ミルキーウェイの水かさが増して、川を渡ることができません。
 そんな時はペガサスが飛んで来て、ふたりを運んでくれるといいます。

 今年の七夕……ふたりは果たして会えるのでしょうか。























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