第4話 物音ひとつしない部屋では受話器の声を聞くことは容易だ。
球の周囲にいた女性たちも、球と相手側の会話に耳を澄ましていた。
「はい、分かりました。準備をします・・・」
(ガチャリ)
球は眉をひそめてインターフォンの受話器を下ろした。
「みんなにも聞こえた?」
「うん、聞こえた」
「ごめんね。うまく相手に話せなくて」
球は申し訳なさそうに言った。
「いいよ、あなたのせいじゃないわ。ねえ、みんな」
「そうよ。仕方ないじゃん。何かセクハラ染みてはいるけど、一応これも試験だし。私、思い切って受けるわ」
「うん、私も」
球の周りはみんな試験を受ける気でいる。
球としては躊躇いはあったが、場の雰囲気から今更辞退できる状況ではなかった。
球達は早速レオタードに着替え始めた。
気が急いていたのと、互いに同性ばかりということもあってみんな大胆だ。
タオルで胸を隠そうともしない。
しかしさすがに5人とも壁際に向かってそそくさと着替えた。
(何これ・・・!?え・・・?うそ!)
球は着替えてからレオタードがかなり小さめであることに気づいた。
胸の辺りは乳房の肉が溢れそうなぐらい窮屈だ。
腰周りもピチピチでまるで締め付けられているようだ。
(やだあ・・・こんなのぉ~・・・)
もしかしたらと思い、球は屈んで下半身に目をやった。
(あっ!やっぱり・・・)
元々恥丘はふくよかな方だが、小さなレオタードのせいでひときわパンパンに膨れその存在を誇示しているかのように見えた。
そればかりか、アンダーショーツを着けていないため、くっきりと縦線が浮き出て、秘所の形状が確認できるほどであった。
球の目線からもそれははっきりと分かった。
(やだぁ・・・どうしよう・・・これじゃ裸と同じじゃん・・・。いや、むしろ裸よりも恥ずかしいかも・・・困ったぁ・・・・・・)
球以外の女性達も同様に、レオタードが自分のサイズよりも小さいことに口々に不満を漏らしていた。
1人だけサイズが小さかったなら会社側の準備段階でのミスといえただろうが、5人揃ってサイズが小さかったことで会社側が意図して行なったものと思わざるを得なかった。
女性達のざわめきを鎮めるかのように、部屋の隅に備え付けられたスピーカーから声がした。
『それではエントリーナンバー1番、上原球さん、どうぞお入りください』
それは1番最初に球の審査を告げるアナウンスだった。
4人の女性が見つめる中、球はごくりと唾を飲み込んで隣室への扉を開いた。
「上原球です。失礼します・・・」
「どうぞ」
第5話 ドアを開けると正面にパーテンションが設けてあって、会議室の中の様子が見えないようになっている。
今回のモデル選考会のために臨時で設置したのかも知れない。
球は大きく息を吸い込み胸を張って進んだ。
最初に球の視界に飛び込んできたのは審査委員の顔ぶれであった。
委員は10数名ぐらいいるようだ。
座席は『コの字型』になっていて、右側に演台が設けられている。
視線は一斉に球に注がれた。
顔面がカーッと熱くなった。
「上原さんですね」
「はい、そうです」
「では、早速ですが、正面の台に上がっていただけましか」
進行役は先程の重村部長のようだ。
重村は演台の方を指し示した。
台は5メートル四方の正方形で出来ており、高さは50センチほどあった。
球はゆっくりと台に登った。
極小のレオタードを着せられ男達の前に立つ。
羞恥心に苛まれながらも、もう後ずさりはできない。
球は一種の開き直りに似た気持ちで台の中央に立ち、委員に軽く会釈をした。
台上だと均整のとれた見事なプロポーションがひときわ美しく映えた。
各サーキット場でのレースクイーンとしての活躍も十分にうなづける。
しかし現在の球の姿はセクシーというよりエロティックといえた。
極小のレオタードのせいで身体の線が完全に浮き彫りになっている。
乳房の形状も分かるし、乳首の位置すらも完全に分かる。
さらには、臍の位置・恥丘の盛り上がり具合・そして恥丘の下の窪みまでがはっきりと確認できた。
審査委員の目は必然的にそれらに止まる。
「上原球さん、では、ただ今から、いくつか問いかけをしますので答えてもらえますか。答えたくないことはノーでも構いませんので」
「はい、分かりました・・・」
「ではお聞きします」
球は重村の次の言葉を息を潜めて待った。
「上原球さん、性感帯を3つ答えてください」
いきなりカウンターパンチのような質問が飛んで来た。
「え・・・?そんなぁ・・・」
「答えなくてもいいんですよ」
答えなければおそらく審査は不利になるだろう。
相手は「答えなくてもよい」と口では言っているが、その言葉には一種の威圧感のようなものが秘められていた。
球は押し殺したような声でポツリと答えた。
「耳・・・」
「耳ですね。はい、それから?」
「乳首・・・」
「乳首ね、はい、もう1箇所は?」
「・・・」
「・・・」
「ク・・・」
「・・・?」
「クリトリス・・・」
球はその言葉を発した後、突然恥ずかしくなって顔をうつむけた。
第6話 「ほほう、クリトリスですか」
重村は周囲の審査委員によく聞こえるように、あえて大きな声で聞き返してきた。
「はい・・・」
球は終始うつむいている。
「上原さん、うつむかない方がいいですよ。モデルは姿勢が大事ですから」
「あ、はい」
重村は球が何故うつむいているのか分かっているくせに、わざと顔を上げさせようとしている。
「では、次の質問に移ります。4択です。最近セックスしたのはいつですか?」
「えっ・・・」
「1番・1週間以内、2番・1ヵ月以内、3番1年以内、4番1年以上していない」
セックスをした時期など果たしてモデル審査とどういう関係があるというのか。
これは露骨なセクハラではないか。
着用した窮屈なコスチュームといい、露骨な質問といい、ちょっと酷過ぎるのでないだろうか。
強い憤りを感じた球は重村に抗議しようとしたが、言葉が喉の辺りまで出掛けて引っ込んでしまった。
言うことは容易い。
しかし言ってしまえば一巻の終わりだ。
せっかくここまで来たのに、チャンスを棒に振ることはない。
「1番です」
球は正直に答えた。
日曜日に彼と会ってエッチをしたのは事実だったし、嘘をつくのは嫌だった。
「1番ですか。ということは1週間以内にセックスをしたのですね?」
(繰り返して聞かなくもいいのに・・・)
「はい、そうです」
重村は間髪入れず質問を続けた。
「絶頂に到達しましたか?つまりイキましたか?」
(そ、そんな質問ってあり~!?)
「よ、よく分かりません・・・」
「でも気持ちは良かったのですね?」
(当たり前だろうがあ・・・分かってて聞くとは・・・)
「は・・・はい・・・」
「ところで話は変わりますが、上原球さん、あなたは身体は柔らかい方ですか?」
(ほっ、やっとまともな質問だ~)
「はい、自分では柔らかいほうだと思っています」
「そうですか。では全屈して指を床につけてみてください」
「はい、分かりました」
球は重村の指示どおり前屈みになろうとしたら、とんでもない注文が付いてきた。
「こっち向きじゃなくて壁のほうを向いて行なってください。足腰の柔軟性をチェックしますので」
(そんな~!こんな小さくて薄いレオタードなのに壁のほうを向いて前屈みになったら、あそこが全部写っちゃうじゃないの~!)
球がもじもじしながら渋っていると、重村から催促の言葉が飛んできた。
「上原さん、時間があまりないので迅速に願います」
「はい・・・」
「もしかしたら本当は身体が硬くてあまり曲がらないとか?」
「いいえ、そんなことないです」
「では、やってみてください」
相手の誘導に上手く填まって行ってる感は否めなかったが、今更、拒否は出来ない。
球は壁のほうを向き、ゆっくりと前屈みになった。
臀部を天井に向ける姿勢になったため、股間が審査委員側に向いてしまい、アンダーショーツの着けていないクロッチ部分がくっきりと写ってしまった。
縦に割れたその美しい谷間の形状が手に取るように分かる。
(いやだなあ・・・審査委員が息を潜めて、じっとアソコを見つめているんだあ・・・)
球は屈んだ足の僅かしかない隙間から、彼らの表情を伺うことはできたが、見てられなくて目を閉じてしまった。
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