第6話「映し出された寝室」

「表向きはプールの一件以外、お二人にはこれといって大きな出来事はございませんでした。しかし私は直感しました。『あの二人はきっと何かを起こすはず』と……。男女の仲と言うものは親密さが増せば必ず接近しようとするものです。まるで磁石の両極が引き合うように。ただ、お二人がお屋敷外でその『何かを起こす』とは考えませんでした。と言いますのも、俊介様はずっと在宅中でしたし、めぐみも買物以外は外出をしませんでしたから。つまり何かが起きるとするならば、必ずこの屋敷内だと確信したわけです」
「ふむ、なるほど」
「そこで私はある仕掛けをしました。実はめぐみが執務中に部屋にこっそりと隠しビデオカメラを備え付けたのです」
「ええっ……!」

 磯野の言葉に真っ先に反応したのはめぐみであった。

「なるほど。それで?」

 泰三は磯野に話の先を急かせた。
 磯野は自信に満ちた表情でつづきを語る。

「論より証拠と申します。この先は私が申し上げるよりもビデオをご覧いただくのがよろしいかと思います。なお、ビデオは3日間つまり述べ72時間撮影を行ないました。その中で何も写っていない箇所や特に問題のない箇所は私の方で編集しております」
「ふむふむ、よく分かった。では早速映してくれ」

 そのとき、めぐみは血相を変えて磯野に抗議した。

「ひどい! 磯野さん、それはあまりじゃないですか! 私が知らない間に部屋の中を撮影するなんて!」
「隠し撮りは褒められたことではないが、おまえが潔癖だと言い張るならば、何も恐れることはないではないか。それともなにか? 見られて拙いことでもあるのかな?」
「それは……」
「はっはっは~。まあ映せばすべてが分かること。では部屋を少し暗くします」

 磯野は部屋の電気を消した。
 すでにカーテンを閉じていたため、部屋は真っ暗になってしまった。

 磯野はパソコンに接続しているプロジェクターのスイッチを入れた。
 暗闇の中でプロジェクターが青白い光を放っている。

 正面のスクリーンにめぐみの部屋が大きく映し出された。
 恐る恐る画面に視線を送るめぐみ。
 いつも見なれた部屋の中だが、つい目をそむけたくなってしまう。
 部屋は電気が点いているのでおそらく夜なのだろう。
 画面にはまだめぐみが映らない。

(あっ、私が現れた……)

 画面の中央に現れためぐみは今から着替えをするようだ。
 メイド服を脱ぎ始めている。
 パジャマに着替えるようだ。
 いくら画面上とはいっても、男たちの見ている前で、脱衣場面を見られることはとても恥ずかしい。

(あぁ、恥ずかしい……でも、この後…もしかして……。あっ! いけないわ! やっぱりあの夜を撮られてるんだわ!)

 着替える場面だけであれば一瞬下着姿は見られるものの、日常のことでもあり泰三に研がれたることは何もないだろう。
 ところが、次の瞬間めぐみは着用していた下着が見て愕然とした。
 それは黒のTバック。
 泰三の指示もあって彼の前でに出るときショーツは常に白のフルバックであったが、就寝時はめぐみの大好きなTバックを着用して休むことにしていた。

(最近10日間で黒のTバックを着けたのはあの夜だけだった……大変だわ! もうすぐ画面にあの人が現れる!)

 青ざめるめぐみ。
 泰三はめぐみの顔を覗き込みニヤりと笑った。

「めぐみは黒の下着もよく似合うではないか。ん? 何やら顔色がすぐれんぞ。もしかしてこのあと見られて拙い場面でもあるのかな? 例えば一人遊びをして悶えるとか、あるいは何者かが現れるとか……?」
「……」

 めぐみはただ黙って俯いていた。
 泰三に代わって、今度は磯野がめぐみに顔を近づけてきた。

「めぐみ、このあと何が起きるか楽しみだなあ。ふふふふふ」
「……」

 めぐみは磯野の言葉を無視して、ずっと顔を背けていた。
 めぐみの耳元でささやく磯野。

「ふん、無視か。まあいい、このあとどんな吠え面をかくか楽しみだよ」

 めぐみがベッドに横たわってから数分経っただろうか、突然ガチャリとドアが開く音がした。
 そしてコツコツと靴音がした。
 誰かが入っていたようだ。
 こんな夜更けに、メイドが眠る部屋に一体誰が現れたのだろうか。

 男の声がスピーカーから漏れた。

『めぐみ、遅くなったね。やっと仕事が片付いたよ』

 画面に現れたのは俊介であった。

「おのれ……」

 血相を変えて泰三が呻いているのが分かる。
 しかし怒りを抑えて、泰三が磯野にたずねた。

「磯野、画面の右下に時間の表示があるだろう? 0時10分だな。こんな夜更けに俊介はめぐみの部屋に何をしに来たんだろうね?」
「旦那様、それはもうすぐ分かります……」

 磯野は冷酷な微笑を浮かべながら慇懃に返答した。



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