第三話

 車井が恐る恐る指を伸ばし湧き出る水をすくおうと姫貝に触れると、しずか姫は腰をびくつかせ鋭く反応した。
 きらりと光る液体が車井の人差し指に付着する。

「なぜこのようなものが溢れてくるのか不思議じゃのう。して味はどうじゃ?」

 車井はしずか姫の顔に視線を送りながら、指をそっと口に運んだ。

「……」
「どうじゃ?どんな味をしておる?」
「よきお味にござります。一言で申すならしょっぱい味にござる」
「ほほう、しょっぱいとな?」
「はい、さようで。されど、その中にほのかな甘みがあって、たいそう美味にござります」
「そうか、そうか。そんなに美味か」

 しずか姫は満悦の様子であった。

「して、出づるのは何ゆえじゃ?」
「それはそれがしにもさっぱり見当がつきませぬ。およそ、姫君が心地良くおなり遊ばしたときにのみ出づるものと察しますが……理由はまったくもって……。その件なれば一度鉄砲隊組頭 夢比世之介にお尋ねくだされ。あの者なればご婦人方にたいそう長けておりますので、何か分かるやも知れませぬ」
「たわけ。そのようなことを他の者に聞けるはずがなかろうが。それはそうと頼んでいた筆はあったか?」
「はい、こちらにござります」

 車井はわざわざ蔵から持ち出した極上の筆『不死鳥の羽根』をしずか姫の前に差し出した。

「ほう、これが『不死鳥の羽根』か。普段の筆と比べてなにやら光沢が違うように見えるのう」
「確かに」
「ふつう筆にはどんな獣の毛を使うのじゃ?」
「常にはタヌキかシカ、ほかではイタチなどを使いまする」
「ふうむ、そうか」
「姫。墨、硯、紙の用意が整いましたが、どこで書かれるおつもりじゃ?机を用意せねば」
「それには及ばぬ」
「はぁ?」
「墨、硯、紙……あと水が要るではないか?水はわらわの水を使うのじゃ」
「……?」

 しずか姫が平然と言ってのけたその言葉の意味が、車井はにわかには飲み込めなかった。

「えっ?姫の水?と言うことは……おおおおお~!!」

 ようやくしずか姫の意図を汲み取った車井は腰を抜かしそうになった。

「そんな驚くべきことか?車井にとっては」
「驚いて当然でござる!姫の湧き水を使えとは……」

 車井は顔色をなくしている。

「よいから使うのじゃ。わらわの水が湧く場所に筆を浸すのじゃ」
「しょ、承知。ではお言葉に甘えて……」

 車井は額に玉の汗を浮かべながら、しずか姫の秘所にそっと筆を運んだ。

「あれれ?」
「いかがした?」
「姫、湧き水が止まってござります」
「では再び出せばいい」
「出すためには姫の大切な処をいじらねばなりませぬが」
「よきにははからえ」
「はは~」

 車井は姫貝の合わせ目に親指と人差し指をあてがいゆっくりと広げた。
 そして合わせ目の最上部にある桃色の実に筆の先端を近づけた。
 桃色の実は完全に乾いてしまったわけではなく、まだほんのりと露に濡れている。

 筆はただの筆ではない。
 この世にたった一本しかない幻の筆『不死鳥の羽根』である。
 毛先が黄金色に輝きを発し、いかなる拙筆な者でもすべて能筆に導くと言われている。
 では女の秘所に宛がうと一体どうなってしまうのか。
 車井は異常なまでの興奮に包まれていた。

 筆がかすかに桃色の実を触れた瞬間であった。

「あぁっ……な、なんじゃ……このすさまじき感触は……」

 しずか姫はあまりの強烈な刺激に驚きを隠しきれない。

「筆いじりはやめておきましょうぞ?」
「ならぬ!続けるのじゃ」

 筆を持つ手が再び動き出す。
 桃色の実に沿って筆先がゆっくりと円を描く。
 右回りで三回、そして左回りで三回。何度も何度も繰り返す。

「あうっ……あうっ……ああっ……車井、何かおかしいぞ……」

 艶めかしい声が漏れる。

「あっ……ううっ……」

 筆先が桃色の実の真上を突っつく。

「ひっ……」

 腰をびくつかせるしずか姫だが、車井は容赦なく責め続ける。

「あ、あうっ……ひっ、ひい~っ……あ~っ……」
「姫、ここがようござりまするか」
「うん、そこじゃ……そこがすごく良いのじゃ……あっ……」
「それなれば、もっと気持ちよくして進ぜましょう」

 車井は筆の回転を速めた。

「あっ、あっ、あっっ……よいぞ、よいぞ、なんじゃこのよき感触は……あっ……あああ~~~」

 いつの間にか車井が桃色の実の皮をめくり剥き出しにして、筆先を宛がっていたのでしずか姫としては堪ったものではない。
 いまだ未開発の生娘と言っても、さすがに自身の異変には気づくもの。

「ひぃ~……気持ちがよすぎて狂ってしまいそうじゃ……あっ……あっっ!」

 喉の奥から艶やかな音色を漏らすしずか姫。
 それはもう泣声に近かった。

 しずか姫がこの世に生を受けて二十年、いまだかつて味わったことのない快楽地獄にのたうち回るのであった。
 最近夜が更けてからそっと閨で指を忍ばせることはたびたびあった。
 誰が教えるではなく勝手に手が動いた。
 しかしその時の快感とはまったく違う。比べものにならないのだ。
 それは密かに想いを寄せるおのこから偶然愛撫を受けることとなったため、快感が二倍にも三倍にも増幅したのであろう。


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