第2話 とても気品に満ちて清楚な美人だが、どこか少女ぽさが残っているようにも思える。 「うん、小早川俊介だけど……君は……?」 「私のこと……覚えてないですよね?」 記憶の糸を必死に手繰り寄せてみる。 くすくすと笑う顔が……あっ!もしやあの憧れだった片桐静香では!? 「もしも違ってたらごめんね。君、片桐静香さんじゃない?」 「まあ、嬉しいわ。そうよ、片桐静香です。おひさしぶりです」 静香はそういって丁寧に頭を下げた。 「あぁ、どうも」 僕はかの憧れの人が目の前にいるかと思うと、照れてしまって同様に頭を下げるしかなかった。 当時、男子生徒からも注目の的で高嶺の花的存在だった片桐静香。 彼女と会話ができたことを昼休みにわざわざ自慢話をする男子生徒もいた。 しかし、当時引込み思案だった僕は会話をするどころか、彼女にチラリと見られただけでも心臓が張り裂けそうなほど痛んだ……そんな記憶が今鮮やかに蘇る。 「小早川くんってすごく変わったわね。もうすっかりと大人の男ね」 そう言って、彼女は屈託なく笑う。 「え?いやそんな……まだまだ大人には……」 相変わらず笑顔がよく似合うきれいな人だなぁ……と思った瞬間、当時なら言えなかった言葉が今は素直に言えるようになっていた。 「片桐さん、すごくきれいになったね。いや、昔もきれいだったけど一段と」 「まあ、嬉しいわ。ありがとう」 「ところでこの辺りもかなり変わってしまったね」 「そうね。この辺りは震災の影響をまともに受けてかなりの家が潰れてしまったのよ。私の家も全壊したし、この学校の校舎もね。今ここにあるのはその後建替えした校舎なのよ」 父親が転勤のため平成6年に他県に引越しをしたため偶然にも震災の難を逃れたが、以前住んでいた借家はどうなっているのだろうか。 僕が引っ越した後も、彼女は神戸の街に住み続けて、そして被災したのだろう。 思い出のぎっしりと詰った場所を目前で失った彼女はどれほど辛かっただろうか。 「でもね……このケヤキは残ったのよ。あんなに酷い地震にも耐えてしっかりと大地にしがみついて倒れなかったの」 「そうだったんだ……」 「でも木だけじゃないわ。人間だって強いわ。あんなに酷く叩きのめされても立ち上がって、こんなに立派な街に復興したんだから……」
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