Shyrock 作

官能小説『美穂 カーセックス』






 それはキスから始まった。

「ねえ、いいだろう?少しだけ」
「まあ、俊介ッたら珍しいわね。クルマでは嫌いだって言ってたくせに」
「そりゃあ、言ったけど……たまらなく美穂が欲しくなってさ」

 俊介はそう呟いた後、再び美穂の唇を奪った。
 最初のキスよりも濃厚だ。

(チュッ……)

 美穂の左肩に添えられた俊介の手に力がこもる。
 美穂は吸い込まれるように俊介の胸にもたれかかった。

(チュチュッ……)

 身体をよじっての熱い抱擁。
 夜更けということもあって人影もなく、周囲を気にすることもない。

 今日のデートは俊介が珍しくクルマ通勤だったこともあって、海岸線をドライブすることになった。
 いつもは電車通勤だから、つい繁華街でのデートが多くなる。
 たまに、平日の夜のドライブもいいものだ。
 気分も高揚する。
 ふだんなら食事の後、街中のラブホテルに寄ることの多いふたりだが、今日は珍しく寄らなかった。
 決してふたりに高揚感がなかった訳ではなくて、いつもと違うデートを満喫したかったので寄らなかっただけだ。

 時計を見ると、すでに十時を廻っていたので、俊介は美穂を自宅に送ることにした。
 美穂は郊外の閑静な住宅地で親と同居している。
 バス通りからなだらかな坂道を登り切ると美穂の家がある。
 坂道の左側は小高い丘があり市の公園になっている。
 街灯が少なく人影もない。
 まもなくクルマのブレーキランプが灯った。

 俊介は身体を寄せて美穂と熱いくちづけを交わした。
 まるで軟体動物のようなねっとりとした舌の感触が、なまめかしく美穂の口内でうごめく。
 身体の中で眠っていた何かが目覚めていく。
 つぼみがゆっくりと開花していくように。

 俊介のてのひらが美穂の胸をやさしくまさぐる。
 カットソーの上からでも、豊かな弾力性は手にとるように分かる。

 ボタン付きカットソーの一番上のボタンを外しにかかる。
 二つ目のボタンも。
 暗い車内であっても下着が白でないことはすぐに分かった。

「ピンク……かな?」
「うん……そう、ピンク……」
「美穂はピンクがよく似合うものね」
「そう?……」

 何気ない会話であっても、場面によっては気分を高揚させる効果があるもの。
 静寂の中で衣擦れの音が聴こえると、手はいつのまにか、美穂のカットソーの中に滑り込んでいた。
 しかしぴったりフィットしたブラジャーが、容易に手の侵入を許さない。
 俊介はもどかしさを感じながらも、少し強引にカップの中に手を差し入れた。

「あっ……」

 指先が乳首に触れた。
 美穂はぴくりと反応する。
 俊介の指がストラップに掛かった。
 まもなくストラップが美穂の肩からするりと抜け落ちた。

 お椀型の乳房が、ぷるんと震えながら露わになる。
 今までブラに押し込められていた乳首を俊介は指で摘まんだ。

「あ……っ」

 俊介はすぐさまお椀を鷲づかみにして、喉元にキスをした。

「あぁぁ……」

 熱い吐息が首筋にかかる。
 美穂はぴくりと反応する。
 ねっとりとした感触が首筋を這い回り、まもなく乳房へと向かった。

「ああんっ……」

 俊介の唇は乳房から乳首へと向かっていた。
 乳頭に触れた。

「いやっ……」

 ピクリと美穂の身体が揺れた。

(チュポチュポチュポ……)

 いやらしい音が車内に響き、いやがおうでも美穂の耳に届く。

(ジュパジュパジュパ……)

「あぁ……」

(チュチュチュチュチュ……)

 口内で転がしたり、吸ってみたり。
 あるいは、舌の先端でチロチロと舐めてみたり。
 俊介の口は実に器用に様々な動きを示した。
 俊介はスカートをたくし上げ、ストッキングをずり下ろしはじめた。
 伝線するのがいやな美穂は、腰を浮かし、自分で下ろす。
 車内のどこかにパンプスを脱ぎ捨てたことなどすでに忘れてる。
 俊介はショーツも脱がそうとするが、美穂はてのひらで制する。

「誰も通らないし、暗いから大丈夫だよ」
「でも家の近くだし……」
「気にすることないよ」

 ためらう美穂の手を退けると、俊介はショーツの横から指を滑り込ませる。
 性急に花弁の中に指を挿し入れる。

「うわ……すごく濡れてる……外だから興奮してるの?」
「そんなことないけど……」

 いつもの俊介ならこのような性急な愛撫はしないのだが、夜更けでしかもやはり路上なので、無意識のうちにせっかちな行動に出てしまったのもやむを得ないことであった。

(クニュッ……クチュクチュ……)

「ああっ……俊介……だめぇ……あぁ……」

 襞の感触を確かめながら、指はさらに奥の方へと突き進む。

「くはぁ……はぁ~……あぁ~……しゅ、俊介ぇ……ほ、欲しぃ……」
「何が欲しいの?」

 俊介はわざと意地悪な質問をした。

「もう……俊介ったらぁ、分かってるくせにぃ……」
「さあね。あ、もしかしたらこれかな?」

 俊介は美穂の手首を掴み、自身の股間に招いた。
 いつのまにジッパーを下ろしたのだろうか。
 俊介の怒張したモノがニョッキリと顔を覗かせている。

「いやん……」
「いやじゃないだろう?美穂の欲しいものはこれだろう?」
「もう、いじわるぅ、そんな恥ずかしいこと言わさないで……」
「だめだめ。言わなきゃあげないよ」
「もう……」
「さぁ、言って」
「俊介の……オ……オチ○○ンが欲しぃ……」

 俊介はにっこりと笑って、美穂のショーツに手を掛けた。
 だが窮屈なセダンの車内では、ベッドのようなわけにはいかない。

 美穂は倒したシートに肘を付き、膝は真っ直ぐ伸ばせないので『へ』の字に曲げている。
 そこへ俊介が覆いかぶさり脚を拡げ、「これから」というときに、美穂は突然大声をあげた。

「ひゃっ!」
「……?」

 美穂はガラス越しに外に視線を送り、身体を強張らせている。
 俊介も美穂の視線の先に目を凝らした。
 一人の男性がとぼとぼと坂道を登っている。
 手提げカバンを持ちゆっくりと歩いている。
 ごくふつうの中年男性だ。
 クルマを止めている場所とは反対側なので、一定の距離が保たれている。

「お父さんだわ」
「な、なんだって?」
「仕事帰りみたい」
「そうなんだ……」

 俊介は頭の上から突然冷水を浴びせられたような気持ちになってしまった。
 よく考えてみれば、美穂の家から離れていない場所だったので、美穂の家族が通ったとしても決して不思議なことではないだろう。
 それにしても何というタイミングの悪さだろうか。
 さあこれから、と気分が最高潮になった時に……
 と、俊介は落胆とした。
 美穂としても同じだった。
 美穂は無意識のうちに足を閉じ、衣服を整えようとしていた。

 美穂の父親は、クルマの真横を通り過ぎるとき、一度だけこちらに目をやった。
 だが特に気に留める様子はなく、すぐに視線を戻しそのまま坂道を登って行った。

 美穂の父親が暗闇に消えて見えなくなっても、美穂と俊介の間に生じた重い空気は変ることはなかった。
 重い空気を破ったのは美穂だった。

「つづき……しようか……?」
「いや……もう今夜はやめておこう」
「そうなの?」
「うん……」
「ごめんね」
「ははははは、美穂は謝らなくていいよ。それよりも」
「なぁに?」
「明日も会ってくれる?」
「うん、いいよ」

 美穂は俊介の誘いに笑顔で応えた。

「明日はクルマじゃないから、いつものカフェで待ち合わせしよう。例の駅前の」
「うん、わかったわ」
「でさぁ」
「うん」
「明日はラブホ行こうな」
「うふ、うん、連れてってね」
「たっぷりといいことしよう」
「いやん、俊介のエッチぃ~」
「ははは。じゃあね」
「うん、それじゃね、帰りは気をつけて帰ってね」
「うん、じゃあ、おやすみ」
「おやすみ」

 ドアの閉まった後、美穂はゆっくりと坂道を登っていった。
 しばらくすると立ち止まり、振り返って手を振ってきた。
 俊介も手を振った。
 まもなく暗闇の中に、美穂の姿が消えていった。

 車内にはまだ美穂の香りが残っていた。
 俊介は引いていたサイドブレーキを戻してクラッチを踏んだ。















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