第9話「⑨番球で射止めた男」
山根は黙々とシャッターを切っている。
ネットアイドル界の頂点に立つ美少女の卑猥な姿。
こんなの絶好のシャッターチャンスは滅多にないだろう。
(いや、この後、もっともっと破廉恥な光景が撮れるはずだわ)
山根は心の中でそうほくそ笑んだ。
バイブレーターが始動してから二分が経過した。
三好はバイブレーターのスイッチを切った。
「ふっふっふ、静ちゃん、どうだね? 気分は? せっかく気持ちのいいところなのに残念だけど、スイッチを切らせてもらうよ。ふっふっふ」
「気持ちよくなんかないわ……ふぅふぅふぅ……」
静は肩を上下に動かして苦しそうに息をしている。
「そうかな? かなり気持ちよさそうに見えたけどね。ふっふっふっ、だけどここまではほんのイントロだよ。ふっふっふっ、イントロ……」
三好はバイブレーターに命中させた男を褒め称えた。
「皆さん、見事命中させた西本社長に大きな拍手をお送りください!」
会場から拍手が巻き起こる。
「おいおい、名前を出すのは止めてくれよ」
男は不満そうにつぶやく。
だがすぐに笑顔に戻り手を振って拍手に応えた。
六人目、七人目も失敗に終わった。
そして最後の八人目に番がまわってきた。
メンバー中最も若い三十前後の細身の男がビリヤード台の前に現われた。
男は某大手メーカーの社長次男であり名前を安野恭平という。
名うてのプレイボーイである。
恭平は三人兄弟の次男だが、兄は音楽を目指し、男は陶芸への道を進み、消去法で恭平が事実上の跡取りということになる。
いわば将来の社長の座を約束されたも同然なのだ。
地位、名誉、資産、それらに不自由のない男が次に求めるものはやはり女だ。
それもただ綺麗なだけの女では満足できない。
輝く星たちの中でも特別に煌く星しか興味がないのだ。
恭平は以前からネットで活躍する静に目をつけていた。
願い叶って今目前に静がいる。
千載一遇の好機とはこのことをいうのだろう。
恭平は周囲を見回すと心に誓った。
(こんなエロじじいたちに渡してなるものか……何が何でも俺のものにしてやる……)
恭平はビリヤード台のエプロンに身体を寄せキューを構えた。
真剣なまなざしで標的を見つめる。
恭平はタップ(キューの先端)で白球の上半分に狙いを定めている。
押し球を打つつもりらしい。
押し球は白球がトップスピンするので他の球に当たると、そのまま白球も向こう側へ転がっていく。
手前に戻ってくるアンダースピンの引き球とはまったく反対になるわけだ。
カチンという乾いた音が響き、白球が放たれた。
白球は真っ直ぐに転がっていき、黄色の①番球をとらえた。
②番球は斜めの方向に飛ばされ、①番球と菱形中央に配置されている⑨番球とが揃って転がっていく。
コロコロコロ……カシャン!
バイブレーターに当たったのは⑨番球であった。
バイブレーターが鈍い振動音を発している。
今回のイベントで二回目の作動になる。
バイブレーターの先端が静の敏感な部分をとらえた。
「ああっ……!」
静のうめき声がした直後、突然賑やかになり拍手が巻き起こった。
ビリヤード台中央の⑨番球を見事“的”に当てバイブを作動させた恭平への惜しみない拍手と喝采である。
「安野恭平さん、おめでとうございます!」
「やりましたね! おめでとう~!」
「すごいじゃないですか~」
恭平の耳には周囲からの拍手と称賛の声など届いていなかった。
恭平の眼中にあるのは静だけである。
バイブレーターの淫靡な振動に、眉をひそめて苦悶する静の表情をじっと見つめている。
強い振動は静の花芯を刺激する。
鈍い音が鳴り止まず唸りつづけている。
「ああっ……いやっ……誰か止めてぇ……!」
バイブレーターが鈍い音を発して、うねうねと卑猥な蠢きを見せている。
静はその先端から逃れようと身をよじらせるが、拘束された状態ではままならない。
その時、恭平が不機嫌な表情で三好に苦情を訴えた。
「これじゃバイブが無造作に股間に当たっているだけで、静は大して感じてないじゃないか」
三好はペコペコと頭を下げながら、これは単なる余興であることを説明した。
「心配はご無用です。ここまでは優勝者を決めるためのイベントだったわけで、本番はいよいよこれからですからね」
「そうか。で、メインイベントはどんなことを考えてるんだ?」
「はい、今からすごいことが起こります。ふふふ」
「もったいぶらずに早く言え」
「ははははは、安野さんはせっかちだなあ。あ、そうそう、その前にヒロインさんにジュースを飲ませてあげなくては」
「ジュース?」
「はい、静ちゃんは緊張の連続だから、かなり喉が渇いていると思いましてね、ジュースを用意してあるんですよ」
「サービスがいいじゃないか」
「はい、私はこれでも女性には優しいほうでして」
「説明はいいから早くしろ」
「はい」
恭平の横柄な態度にも三好は徹底して平身低頭である。
「静ちゃん、喉が乾いただろう。ジュース飲ませてあげるよ」
「いらないわ」
静は顔を背けてそっけなく答えた。
三好は静の耳元まで近寄って小声で威嚇した。
「飲むんだよ」
「……」
「素直にした方が身のためだぞ」
三好は凄んでみせる。