官能小説『隣人 改』
しょうた&リレー小説参加者の皆様

※第1話~第2話はしょうたさんの直筆により、
第3話以降はリレー小説の皆様の合作によります
編集はしょうたさんです



第18話

 今、足音の主が久美の住まいの前に立っていることは明らかだ。鍵穴にキーを差し込む音がしないので、きっと久美の身内ではないだろう。
 そんな事を考えていると、春のそよ風に流れて甘い香水の匂いが漂ってきた。男性用のコロンではなくオンナものの香りだ。
(ん!?)
 この香り、何度も嗅いだことがある。香水の名前までは知らないが、この香り、若妻と廊下ですれ違ったとき、エレベーターで一緒になったときに鼻腔を擽った甘い香りに違いない。
 訪問者はみどり? と若妻が脳裏に浮かんだ時、久美の声が耳に入った。
「もぉ、早いのね。今からシャワーを浴びようとしていたところなのに……」
 きっと俺が戻ってきたと思ったのだろう、久美は誰が聞いても愛しい男性に放つ湿り気のある声をだした。
「え、シャワーですか?」
 聞き覚えのある美声が応える。やはり、訪問者は若妻みどりだった。
「え、誰? みーちゃん?」
 久美の声色から彼女が動揺している様子がわかり、ついにやけてしまう。

「そうですぅ……」
「あれ? 今日はレッスンの日だったかしら?」
 レッスン? そういえば、久美はアロマテラピーの先生をしていると妻から聞いた覚えがある。
「いやだ、久美さん、忘れちゃったんですかぁ?」
「えっ?」
「こないだのレッスンの日に今日のランチ一緒に食べようって誘ったのは久美さんでしたよね? それに久美さんからリクエストのあったケーキ買ってきたのに……」
「えっ! あっ、そう、そうだったわね! ごめーん、ちょっと待ってて、今あけるから」

    久美の慌てた声のあと、インターホーンがぷつりと切れたのが聞こえ、直に、ドアの開く音がした。

「ごめん、ごめん、わたしうっかりしていたわ。それにこんな格好でごめんね。気合入れて部屋のお掃除をしていたら、汗びっしょりになっちゃって。それで今からシャワーをしようと思っていたところだったの……」
(おい、おい、汗だくなった原因は違うだろう)
 みどりに咄嗟に思い浮かべたであろう言い訳をする久美につい噴出しそうになったが、笑っている場合ではない。久美とセックスしたことが、みどりに知られたらやはり不味い。妻と互いの家を行き来するほど親密な関係ではないにしても、妻と顔をあわせ、雑談を交わすことはある。
 とりあえず、久美が上手く誤魔化してくれることを祈るしかない。
「そうなんですかぁ~? さっきの言い方、わたしじゃなくて、誰か他の人を待っているような感じがしたんですけどぉ~」
「もぉ、そんなに突っ込まないでよぉ。ちゃんと説明するから。ね、ともかくあがって、ね、ねっ」
「本当にいいんですか? お約束があるようでしたら、私はまた別の日でも構いませんよ」
「もぉ、そんなに気にしなくていいのよぉ~。お客さんっていってもみぃちゃんも知っている人だから」
(げっ!? なんてことをいうんだ!)
 久美の言葉に心臓がドキッとした。
 お客さん、みぃちゃんも知っている人というのは俺のことに違いないと思ったからだ。
 この後、久美はみどりにどこまで話すのだろう? まさか、俺とセックスしたということまでは話すことはないとは思うが……。
「えっ、誰? 誰ですかぁ~?」
「まぁ、いいから、あがってよ」
「はぁ~い。じゃぁ、お邪魔しますぅ」
 賑やかな女性たちの声が消え、辺りに静寂が戻った。




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